「ゼルエル」
 ゲンドウの手のひらから鞭のようにソードが伸びた。
「プログナイフ」
 跳ね上げるレイ、火花を散らして刃の上をソードが滑る。
「加粒子砲セット」
 レイの右肘パーツ先端部がずれて、エネルギー照射口が現われた。
「照射」
「ATフィールド!」
「出力、最大…」
 数秒間の間、ケイジが閃光と黒影の二色に塗り分けられた。
「くっ」
 先に膝を突いたのはゲンドウだった。
「あなたには、邪悪な影を感じるわ…」
 警戒を崩さずにレイは歩み寄っていく…
「邪悪…、そうだろうな」
 気怠げに顔を上げるゲンドウに、レイはゆっくりとかぶりを振った。
「あなたは…、変わってしまったわ」
「なに?」
「…わたしのおじいちゃんは、そんな人ではなかったもの」
 憐憫を含んだ瞳に見つめられて、ゲンドウは胸の中心に苦しみを覚えた。
 疼きに呻くゲンドウに追い打ちをかける。
「あなた、誰?」
 あなた誰、あなただれ、アナタダレ…
 何重も響き続けるレイの声。
「わたし、は…」
 ゲンドウは頭を押さえてうずくまった。
 今度こそ頭痛に動けなくなる。
 喘いだ口から苦しげな息遣いが漏れ出している。
「あなたは、碇ゲンドウではない」
 レイはそんなゲンドウに、断定口調で指差した。
「あなたは、赤木博士の願望…、そのものよ」
 直後ゲンドウの背中から、アラエルの翼が広がった。

うらにわには二機エヴァがいる!
第弐拾壱話「エヴァ、強襲」

「ラミエル!」
「ATフィールド…」
 リツコの声で叫ぶゲンドウ、いや、あるいはゲンドウの姿をしたリツコなのか?
 ともかくも、右の手のひらにクリスタルが現れた、しかしそこから伸びた光線は、やはり金色の壁によって弾かれた。
 ガコン!
 弾かれた光は天井に当たって爆発を起こす。
 がらがらと崩れ落ちる鉄骨がレイとゲンドウの間を裂いた。
(なんだこれは…)
 ゲンドウは体の震えを感じていた。
 それも恐怖心に類するものであった、ゲンドウは自身の変調を自覚していた。
(何故だ)
 体が思い通りに動かない、まるで第三者の視点から見るように、己の戦いを鑑賞させられていた。
「レイ!」
 それでも口から迸る声は、確かに自分の感情なのだ。
 がらがらと鋼材がアンビリカルブリッジから滑り落ち、LCLへと沈んでいった。
 底に着いた鉄材が、ガコォンとケイジ全体を響かせる。
 ゲンドウはレイの赤い瞳を睨み付けながらも、疑問符を内側へと向けていた。
(何故ここに居る)
 ゲンドウの中で、意識が分裂を起こしていた。
 より本当の自分に近いのは…、間違いなく冷静な方のゲンドウであった。


 ミサトはケイジの様子を本部指令室で見守っていた。
 正確には見守らざるをえなかった、他に出来る事が無かったからである。
「碇ゲンドウ、彼に一体何があったというの?」
 その顔は怪訝なものに彩られている。
「あなたは何を知っているの!」
 だからと言うわけでも無かったが、ミサトは苛付きから傍らに居るカヲルに噛みついていた。
「言いなさい、あの不自然なまでの力はなに?」
「…人の望みは人の数だけ存在すると言う事ですよ」
 カヲルはようやくミサトに答えた。
「それが自らの願いと他人の想いに符合しないとわかっていても、人は願望を押し付けてしまう…、押し付けたくなる、それを跳ね付けるためのATフィールドだというのに、彼は自分を見失っていた…」
 カヲルの超然とした雰囲気に飲まれてミサトは後ずさった。
「司令が洗脳を受けていたと言うの?」
「洗脳ではないよ…、汚染には近いけどね?」
 動揺から昔の呼び名を持ち出すミサト。
 カヲルはあえてそれを指摘しなかった。
 金色の翼を広げたゲンドウは、女の金切り声を上げながら、少女に向かって襲いかかっていく。
「まさにボスキャラと言った感じだねぇ?」
「何ふざけてんのよ!」
「ふざけてなんていないさ、あれこそが彼女の望みだったのだから…」
「彼女?、リツコ!」
 ミサトは愕然とした。
「…悪の首領と女幹部、投影された願望にあの人は毒されてしまったのさ」
「それであの体たらくだっての!?」
「そうさ」
「そんなの!、始末に追えないわよ!」
「だから僕達はここで見ている、違うかい?」
 カヲルの両手はポケットにしまわれている、だから誰も気が付かなかった。
 その手が汗ばむほどに、強く握られていたと言う事に。


「誰にも、誰にも邪魔はさせないわ!」
 ゲンドウの口からリツコの声ががなりを上げる。
 それは確かにリツコ以外の何者でも無い。
 しかしレイの小さな唇は、そんな女を嘲り笑った。
「妄執は歳のせいね?、ばあさん」
「なんですってぇ!」
「取り付いた悪霊は、この槍で落としてあげる」
 そう言って手を開き横へと突き出す。
 同時に突き上げるような激震が、ネルフ本部全体を揺るがした。
「この震動はなに!?」
 リツコは宙に飛び上がる事で震動から逃げた。
 翼が滞空するために大きく羽ばたく。
『ドグマに高エネルギー反応、上昇しています!』
『現在三層を貫通、止まりません!』
「まさか!?」
 リツコゲンドウはキッとレイを睨み付けた。
 その瞬間、水を巻き上げるようにして飛び上がったものが、パシッとレイの手に握られた。
「ロンギヌスの槍!」
 それも人の扱うサイズになっていた。
「じっさんばっさんは用済み…」
「なぁんですってぇ!」
 レイの背中から、渦を巻くように白い翼が広げられた。
 それはかつての、レイの姿を模したリリスを想像させる翼であった。


「まずいわ、レイ、本気!?」
「…さて、どうでしょうか?」
 ミサトの焦りを鼻で笑う。
「義理とは言え、祖父を殺すとは思えないけどねぇ?」
「そんなのあんたの勝手な思い込みでしょ!?」
 なんとか干渉できないものかと思案する。
「保安部を回して…、いえダメね?、ATフィールドを操る者同士の戦いに通常火器なんて…」
 カヲルはやれやれと肩をすくめた。
「心配しなくても、ほら」
「なに?」
 つられて画面を見上げる。
 ゴッカン!
 ケイジの壁が、何かによって吹き飛ばされた。


 本部が揺れた。
「きゃあ!」
 跳んで来た破片に頬を腕を切り裂かれてゲンドウは落ちた。
「!?」
 ゲンドウの目が見開かれる。
 その隙を見逃すようなレイでは無かった、槍を振りかぶって投擲する。
 カン!
 あまりにもあっさりと、槍はゲンドウの張っているATフィールドを貫通した。
 槍はそれだけでは無く、ゲンドウをも射貫いていった。
「峰打ちよ、安心して…」
 どさりとゲンドウの体が橋の上に落ちて来た。
 一方、壁に刺さった槍には金色の鳥が縫いとめられていた。
 ゲンドウに取り付いていたアラエルである。
 ピィイイイイイイイイイイ!
 アラエルが悲鳴を上げる。
 壁に空いた大穴、その向こうの暗闇から、それ以上に黒い腕が伸ばされた。
 コッ!、ボン!!
 爆発、四散させられるアラエル。
 反動で抜け落ちた槍が、ポチャンと音を立てて沈んでいった。
 レイは目を細くした。
 四肢をだらりと垂れ下げて、宙を浮遊し黒い鬼が穴の向こうから抜け出して来たからだ。
 レイはその正体を知っていた。
「エヴァ…、参号機」
 それも人間大の。
 形状はまさしくエヴァンゲリオン参号機のものだ。
 怪物はやがて橋にまで辿り着くと、ゆっくりと高度を落として降り立った。


「そんな…、エヴァが…、どうして?」
 ミサトは脅えるように後ずさった。
 本能的な恐怖に支配されて。
「葛城さん!」
 自失状態にあったミサトに、マコトの鋭い声が飛んだ。
「ミサトは危うい所で足を引いた。
「なによこれは!」
 踵が踏むべき床が消えていた、真円の影がミサトの背後に開いていたのだ。
 そしてその中央の空中に浮かんでいるのは…
「レリエル!?」
 縞模様の球体だった。
「まさか指令部を直接叩こうというの!?」
「違いますよ…」
 ミサトを諌めたのはカヲルである。
「先輩!」
「なんですって!?」
 ミサトはマヤの声に大いに慌てた。
 白い穴の縁に手をかけて、女性が一人這いずり出て来る。
「リツコ!」
 その特徴的な金髪は、確かにリツコのものであった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。