GenesisQ’Voltage2「無敵の盾」

「すまなかったな、アスカ君」
「いいえ、これもエヴァを持つ者の使命ですから」
 まるでお姫様みたいだ…
 真紅のドレスで優雅に挨拶するアスカに、シンジは驚きの目を向けていた。
 ふふふ、もっとよ?、もっとあたしに憧れなさい?、なんてったってあたしは「ソウリュウ国」の王女なんですからね!
 ほーほっほっほっと、人前にも関らず高笑いを上げる。
 エヴァの使い手って、変な人ばっかりなのかな?
 ちらりとシンジは隣を見た。
 そこにたたずんでいる横太りな鎧。
 女の子なんだよな…
 鎧ということは、中身はもう少し小さいだろう。
 じゃあ僕と同じぐらいの背丈か…
 想像の中で、横のサイズを計って見る。
 計る。
 計る。
 やめよう…
 好みじゃないと判断する。
「シンジ」
「はい?」
 ゲンドウは王座に座り、器用に膝に肘をついて手の橋を作っている。
「お前はこれから旅に出るのだ」
「旅?」
「そうだ」
「なんで?」
「この世界の何処かにあると言う黄金の盾を手に入れるのだ」
「なんだよそれ?」
「それは魔剣エヴァと対を成す盾だ」
「そう言えばエヴァってなんだよ?」
「わからん」
「天使とか言ってたよね?」
「謎だ」
「…盾って」
「誰も見たことがない」
「そんなの見つかる分けないだろう!?」
「エヴァが導く」
「そんな分けの分からない物にどうやって探してもらうんだよ!」
「それぐらい自分で考えろ」
「どうして僕なの?」
「お前が一番暇そうだからだ」
「わかったよ」
 ええっ、わかったの!?
 居並ぶ一同がずっこける。
「そうそう、旅を放り出して逃げ出さんように監視は付けるからな?」
「ちぇ…」
 実はそう言うつもりだったらしい。
「大体お前は昔からそうだ、畑を耕す、料理を作る、少しは男らしい事をしろ!」
「宿のコック長は立派な仕事じゃないか!」
「だからといって自分で満足する野菜を育てる事から始めるな!」
「そうでもしないと父さんが送り付けて来た10クレジットの送料を払えなかったんだよ!」
「ああ言えばこう言う…」
「文句があるなら早くしてよ、でなきゃ行くよ!?」
 パチンと指を鳴らすゲンドウ。
「ではどちらかを持っていけ」
「え?」
 ドスンと地響き、レイがやたらと大きなつづらを持って来た、シンジよりも大きい。
 もう一つはアスカが、抱きかかえられるくらいのつづらを下ろす。
「大きい方には満杯の金貨が入っている」
「凄い…」
「小さい方には普通の旅支度の品だ」
「ふぅん」
「ではどちらかを持っていけ」
「…自分で持てなきゃダメだって言うんでしょ?」
「よくわかったな?」
「父さんのやる事だからね?」
「さすがわたしの息子だ」
「父さんがワンパターンなんだよ」
「ならばお約束をわかっているな?」
「わかったよ…」
 よっこらしょっと。
 どすこい!
 どよめき。
「じゃ、もらってくから」
 重量にして約五百キロ。
 そんなつづらを平然と背負う。
 さすがはゲンドウの息子とざわめいた。
「シンジ、貴様」
「労働少年をなめないでよね?」
 にやり。
「まあいい」
 こちらもにやり。
「そのつづらにはおまけがあってな?」
「え?」
「もれなくつづらを運んで来たお嬢様がお目付役としてついていく事になっていたのだ」
「えええええー!?」
 ぽっと頬を染める鎧と、ひくひくと引きつっているアスカ。
「そ、そんな!、チェンジ、チェンジは!?」
「そんなものはない」
「だまされたー!」
 シンジの叫びがこだました。


 しかし貰う物は貰ったのでほくほくである。
 シンジは真っ先に街の両替屋へと足を向けた。
「あ、これ全部宝石に変えて下さい」
「こ、これをですか…」
 お店のシャッターが閉まってしまった。
「結構すっきりしたなぁ」
 小袋の重さを確かめる。
 すたすた。
 がしゃんがしゃん。
 すたすた。
 がしゃんがしゃん。
 すた。
 がしゃん。
 振り返る。
 鎧が居る。
 街を歩くと視線が痛い。
 シンジは必死に涙を堪えた。


 屈辱だわ!、このあたしがあんな鎧に負けるなんて、あの程度のお金に負けるなんてぇ!
 ちなみに色仕掛けを仕掛けていたのだが、シンジはアスカの顔など見ていなかった。
「ばかシンジぃ!」
 怒って部屋へと押し掛ける。
「むっ!?」
 どうやら布団を被って寝ているらしい。
「このあたしを無視するとはいい度胸じゃない!」
 ゴス!
「ふぎゅうーーーーー!」
「え?、ええ!?」
 布団を剥ぐ、女の子だ。
「あんた誰よ!」
「シンジさまぁ〜」
 きゅうっとミズホは気絶した。


 シンジは前向きな少年である。
「そう、父さんに拾ってもらったんだ?」
「ええ…」
「レイも天使なの?」
「そう、これは天使の鎧だから」
「だから着るの?」
「絆だから」
「変なの」
「そう?」
「まあカッコイイから良いかもね?」
「ありがと」
 ぽっと鎧が赤くなる。
 良いじゃないか、相手が鎧でもいいじゃないか。
 もう開き直り。
 なまじ顔が見えるよりもいいじゃないか、声は可愛いんだから、そうだよ、現実が判らないってのは悪い事じゃないんだ!
 必死に思い込もうとしている。
「あ、もうお昼だね?」
「ええ…」
「何か食べる?」
「…サラダらーめん」
「え?、サラダ?」
「ええ…」
「なぜサラダなの?」
「お肉、太るもの」
「あ、そう…」
 二人でお店の前に立つ。
「…あ、でもその恰好じゃ入れないや」
「問題無いわ、脱ぐから」
「脱ぐ?、え!?」
 やめて、やめてよ、良いじゃないか!、夢を見ててもいいじゃないか!
 約コンマ三秒ほど自我崩壊を起こしてディラックの海に沈み込む。
 しかし次のゼロが九つ並ぶくらいの瞬間で立ち直った。
 か、可愛い…
「ん〜〜〜、久しぶりの太陽って気持ちいぃ〜〜〜、肌焼けないから寂しいけど、ね?、シンちゃんは小麦色と白いのとドッチが良い?」
 ぼうっとしているシンジ。
 何しろ中から出て来たのが極普通の可愛い女の子だったからだ。
 しかもミニのスカートに皮鎧と言ういでたちだ。
 こ、こんな普通の子に出会えたなんて!
 もう巨大鎧の方は視界に入っていないらしい。
「あ、あの…」
「え?、なぁに?」
 先程と違ってやたらと明るい。
「ほ、ほんとにレイなの?」
「やぁねぇ?、見てたじゃない」
「う、うん…」
「もしかして、あたしが可愛くて見とれちゃった?」
「うん」
「え?」
 肯定されて恥ずかしくなる。
「や、やだ…、ね?、早く入りましょ?」
「う、うん…」
 緊張したシンジの手は、足と一緒に前に出ていた。


「え?、じゃあ…」
「重くて歩くのに必死で話せなかったの」
「だから無口だったんだ…」
「シンちゃんは?」
「なに?」
「女の子に慣れてるみたい…」
「もてないからね?、諦めると気が楽になるって言うか…」
「そう?」
「好かれてないなら恥かいても良いやって思えるから」
「そうじゃなくて、どうしてもてないの?、ミズホちゃんは?」
「よくわかんないけど、いつのまにかああだったんだ」
「ふぅん…」
「それに僕、貧乏だったし自然食マニアだし料理が趣味だし」
「あ、じゃあダイエット食作れる?」
「作れるけど?」
「やったぁ!」
 急に勢いよくラーメンをすする。
「これで思いっきり食べられるぅ!」
「…気にするほど太ってないと思うよ?」
「そう?、シンちゃんはドッチが良い?」
「なにが?」
「アスカ姫とあたし」
「そ、そりゃ、れ、レイ、かな?」
「…さっきまで嫌がってなかった?」
「や、やだなぁ、あは、はは、は…」
「ま、いいけどぉ」
 ちょっとだけジト目で見、シンジが焦ってる隙にチャーシューをかすめ取る。
 ちなみにゲンドウもレイの真実の姿を知らず…
「レイ、わたしを騙していたな、レイ!」
 と悔しがったのは言うまでもない。


続く








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