信州八ヶ岳、そこはかつて、登山家に愛された山だった。
 だがそれも過去の隆盛である、いまやセカンドインパクトによって、様変りを余儀なくされていた。
 崩落により、危険な状態へと陥り、人が入り込まないように、登山道は完全に封鎖されている。
 地脈の変動に伴う大地震と、大気の流動によって起こった風雨が、山の形を変えていた、そんな場所だからか、地質調査などを含めた研究所兼観測所が、多数設置されていた。
「おい、どうなんだ?」
 やや興奮した口調で問いかけたのは、いかにも『トばされました』と訴えている、ストレス太りをしている中年男だった。
 同じくのめりこんでいる所員の手元を覗き込む。
「解析結果は」
「凄いですよ、これは……」
 こちらは将来有望そうな青年だった、しかし上司が彼では、どうなることか分からない。
「まず間違いないですよ」
「そうか!」
 聞き耳を立てていた女性二人が、きゃあと大きく嬌声を上げて、手を叩き合った。
 ──地軸の変動は、地下のマグマ層に、非常に大きな影響を与えていた。
 この調査のために、先日、超音波探査が行われたのだが、その観測結果に、非常に興味深い、妙な反応が見つかったのだ。
 地中、それほど深くない場所に、何かの『塊』が発見された、ボーリングの後、さらなる調査が行われ、それは直径二十メートルほどの、巨大な岩塊であると確認された。
 山の半分を崩し、相当の大穴を掘ることになってしまったのだが、問題はその岩の周囲の地層が、奇妙な具合に『歪んで』いたことにあった。
 まるで岩が、身じろぎでもしたかのように、ねじれていたのだ。
 彼らは掘り出した物を検分していった、物質の分子は固有の振動数を持っている、これの検査まで行い、導き出した結果は……
 ──鉱物生命体。
 彼らは真球に近いこの物体を、そのような地位にあるものだと位置付けた。
「良いか?、データを取れるだけ取って、大学へ回すんだぞ?」
「え?、でも良いんですか?、こういうデータって、例の所に最優先で回すようにって」
「馬鹿!、浅間山の観測所の話を聞いただろう?、全部没収されたんだぞ!、そんな真似をさせてたまるものか」
 何しろ、ノーベル賞も夢ではない発見なのだ、大学に戻るにも、実に十分な成果である。
「分かったな、向こうは放っておけ!」
 青年は実に不満そうに口にした。
「……分かりました」


NeonGenesisEvangelion act.59 『彼女の受難 起の章(1)』


 ──夕刻の日差しはきつかった。
 常夏の国、日本、その夕日は寝不足の身には、かなりきついものがある。
 あげくに、歩いている坂道もきつかった。
 鬱の入った様子で、とぼとぼと女性が登っていく、赤木リツコだ。
 ──ホームパーティー?
 はいとにこやかに笑ったシンジの顔が忘れられない、生憎とその日は都合がと、わざとらしく逃げようとしたのだが……
「あ、マヤさんも、ぜひ」
 いいなぁと指を咥えて物欲しそうにしているマヤを、人質に使われてしまったのである。
 ……逃げられなくなった。
 可愛い弟子を、見捨てたりはしませんよねと、脅迫に感じられた一瞬だった。
 立ち止まり、ふうっと汗を拭いつつ、新時計坂町の坂を見上げる、まだまだ頂上は遥か彼方だ。
 と、一台の車が追い抜いて、少し先でハザードランプを点けた。
 路肩によって停まる、リツコは見覚えのあるナンバーに目を細め、近寄った。
「よぉ」
 覗き込めば、やはり加持が座っていた。
「加持君、あなたもなの?」
 まあなという答えを聞いてから、リツコは助手席側へと回り込んだ、ドアを開いて、勝手に乗り込む。
「こりゃまた、えらく沈んでるな、疲れてる?」
「気が重いだけよ」
 加持は杞憂に過ぎないと笑ってやった。
「取って食われやしないさ」
「だから、気が重いのよ、普通にしてなくちゃならないから」
 曖昧に引きつる加持である。
 サイドブレーキを下ろし、ハンドルを切ってアクセルを踏む。
 確かにリツコの言う通りだった、相手に下心があるのなら、それなりにあしらえば良いだけのことだ。
 だがこのパーティーは違う、他意など無いのがはじめから分かり切っている、本当に普通のパーティーなのだ。
 ……待ち受ける面子は、ともかくとして。
「で、後は誰が?」
「そうだな……、山岸監査官と、そのご令嬢、司令と副司令は逃げたよ」
「知ってるわ」
「気をつかってくれたのかな?」
 似合わないと思ったんじゃない?、ホームパーティーなんて、そう言いかけて、リツコは堪えることにした。
 軽口にしても、嫌味が過ぎると思ったからだ。
「それから、向こうの知り合いが来るとか聞いたな、アスカに」
「そう……」
「マヤちゃんは?、楽しみにしてたような気がするんだけど……」
 リツコは眉間に指を置いて、頭痛を堪えた。
「聞かないでちょうだい」
「いや……」
 苦笑いを浮かべて、顎をしゃくった。
「分かったよ」
 目的地でもあるマンションの、エントランス前。
 そこにそわそわと待ち受けている、伊吹マヤの姿があった。


「いらっしゃいまっほー」
 さむっ!
 ……風が吹いた、とても寒い風だった。
「アンタじゃま!」
 どがっとレイをケリ飛ばしたのはアスカである。
 リツコは見なかったことにした。
「本日はお招き頂いて」
「招いたのは、ホーリィだけどねぇ」
 まだ何かいらんことを言おうとするレイのこめかみをぐりぐりとしつつ、アスカはどうぞと中へと通した。
「君達か」
「こりゃどうも、山岸監……、さん」
 加持はあえて言い直した、プライベートなのだから、堅苦しく役職で呼ぶこともなかろうと。
「お早いおつきで」
「娘に急かされてね」
「娘さんですか」
 どうもとぺこりと頭を下げるマユミに、加持はよろしくと片手を上げた。
 今日のマユミはドレスと言っても通じる、黒のワンピースを着ていた、頭は髪留めで左右を後ろに束ねている。
 仕事柄、顔は写真で知っている、しかし加持は、さも初めてのように装った。
「こりゃまた、可愛らしいお嬢さんで」
「手は出すなよ」
「ご冗談を」
 いや、とゲンタ。
「君の武勇伝については、色々と聞いているからな」
「武勇伝?」
「ああ」
 視線の先に、アスカを見付けて、ひきつった。
 そんなわけで、山岸ゲンタが加持を警戒し、娘を遠ざけようとしたのは自然な成り行きだったかもしれない。
 ……加持としては、不本意であったが。
 ゲンタは、騒がしくなった子供達へと、視線を移した。
 綾波レイ、レイ=イエル、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、それらは見た顔なので良かったが、彼が特に気にしたのは、霧島マナの顔だった。
 日本国は、セカンドインパクト直後、朝鮮への不安と称して、軍事行動を展開したことがあった、これを制するために、国連は自衛隊を一時預かりとして、軍事活動を凍結させている。
 日本が法的整備を急ぎ、戦自を作った理由のひとつには、そのことに対する反発も実は隠されていた。
 ──国連がその動きを警戒し、資料を集めないはずが無い。
 ゲンタが目を通した極秘文書の中に、マナの顔写真が存在していた、それは戦自の、非人道的な実験に関するものだった。
 彼の目は、自然と碇シンジへと向かうことになった、戦略自衛隊の異常な研究、開発運動には、倫理的に問題のある点が多かった、このため国連は、『救出部隊』の派遣すら検討したことがあったのだ。
 実際には、この作戦は決行されることなく、立ち消えとなっている、問題の基地が、『不穏分子』によるテロにあったためである。
 ──碇シンジが、関与していたということなのだろうか?
 普通の子供に見えるのだが、やはり一筋縄ではいかない相手であるらしいと、ゲンタは警戒心を改めた。
 一方、そのシンジであるが、少女達に絡まれて辟易していた、酔って絡むマナ、そのマナをからかうアスカ、ちゃちゃを入れるレイ=イエル、冷ややかに見ているレイ、そのレイのお酌の相手を努めることになったマユミ。
 何故だか浴衣姿のレイである、お猪口で日本酒を嗜んでいるが、崩した姿勢が首筋から肩にかけてを覗かせていた、ほんのりと色付き、艶美である。
 とても十四歳の少女がかもし出す色気ではない。
 見とれていると、マナの声が耳に入った。
「アスカってぇ、おじさん趣味ぃ?」
「あんたケンカ売ってんの?」
「でもでもぉ、ドイツじゃあのおじさんにべったりだったんでしょぉ?」
 そこんとこどうでしょう?、とシンジに振ってみたりする、ところがだ。
「恋多き少女は、深く人生を知るってね、先人の言葉さ」
「先人って誰?」
「加持さん」
 あんたもかー!、っと全員が突っ込んだ。
「え?、だって僕、加持さんに習ったんだもん、その辺のこと」
「それでこの状態なわけだもんね……」
 ひのふのみと数えていくアスカである。
「ま、加持さん仕込みじゃ、そうなるか」
「あの……、加持さんって、そういう人なんですか?」
「そうよ?、だからアンタも気をつけた方が良いんじゃない?」
「え?、そんな、わたしみたいな子供なんて……」
 アスカは耳打ちしてやった。
「今は子供でも、いつかは大人になるでしょう?」
「それはそうですけど……」
「大人ってのはね、年取るほど若い子に興味持つもんなのよ、ガキの時は逆、大人に憧れんの」
「おお、実感こもってるぅ」
 これはレイ=イエルだった。
「さすが、オ・ト・ナ」
 ふふんとマナに横目をくれる、関係ないのに。
 にゅにゅにゅにゅにゅっと唸るマナと、他人のことで勝ち誇るレイ=イエル、それに急に無関係を装ったアスカの三人に囲まれて、マユミは幾度も首を傾げた。
「なにかあったんですか?」
「気にすることないよ」
「そうなんですか?」
「気にすると禿げるよ」
「ええ!、そうなんですか!?」
 本気でうろたえるマユミである、ちょっとだけ額が広いのを気にしているらしい。
「そうそう、だからねぇ?、マユミっちゃ〜ん」
 馴れ馴れしくしな垂れかかったのはマナだった。
「シンジはやめといた方が良いんじゃなぁい?」
「え?」
「苦労するに決まってるしぃ?」
 マユミは慌てた。
「そんな……、わたし、碇君とは別に、そんな……」
「そんな?」
 ぴくぴくと目の端をひくつかせる。
 マナはきっちりと覚えていた。
 ──某基地にも似た研究所の、広大な敷地でのことだった。
 巨人と怪獣がぶつかり合う中、爆砕したコンクリートが埃となって漂う中で、抱き合っていた少年と少女の二人の姿を。
 シンジとマユミ。
 あの光景を見せ付けられて、そんな言い訳を許せるだろうか?
 ──無理である。
 意地の悪さがどんぶり並みに盛られていく。
 そんなマナの様子に、危機感を募らせたのはレイだった。
「フラストレーション、溜まってんじゃないのぉ?、あの子」
 こそっとレイ=イエルは囁いた。
「もうちょっと、働かせてやった方が良いんじゃない?」
「スカッとするような仕事って、なにかあるの?」
「今んところは、ないかなぁ?」
 などとそんな不穏当なことを話し合っているのは、なにもシンジ達だけではなかった。


「美味しい料理に、美味しい酒、良いねぇ、潤いがあって」
 そうねとリツコ。
「ついでに、美しい女の子も欲しいんでしょ?」
 シンジたちの元へ混ざりに行こうとするマヤの首根っこを押さえている。
 加持はその様に失笑をこぼした。
「しかし、いつの間にシンジ君にやられたんだ?、マヤちゃんは」
「……毒気に当てられたんだ、に言い直してくれない?、表現を」
「堅苦しい言葉づかいは苦手でね」
 肩をすくめる加持に、目を細める、酔っているのかもしれない。
「ヒワイなのよ」
「そんな文学小説に出て来るような表現を使ってちゃ、会話は弾まないぞ、もっとフレンドリーに行こうや」
「その台詞、こちらの方にも言ってみる?」
 と、娘の心配をしているゲンタを会話に巻き込んだ。
「どうなさいました?、山岸さん」
「あ、いや」
 ごほんと、頬が赤くなるのを、咳払いで護魔化す。
「ホーリア君が、居ないなと思ってな」
「そう言えば」
「ああ、ホリィちゃんなら、キッチンに居たよ、この手のパーティー料理の出来る奴が他に居ないからって、ぼやいてたな」
 いつの間にと、油断がならないと警戒を深める。
「そうか、彼女も慣れていないのかな?」
「慣れですか?」
「ああ、こういうホームパーティーでは、主催者が迎えに出るものだろう?」
 リツコには共感できなかった。
「わたしは、あまり知りませんから……」
「日本人は、そうか」
「はい、せいぜい、持っているのは映画のイメージでしょうか?、和気あいあいと庭で盛り上がって、お手伝いの人が準備をして……」
 ゲンタはそうだろうねと、頷いた。
「でも、見ている人間が違和感を感じないように、映画はそんなものだろうと納得できる演出をこころがけるものさ、そう違ってはいないさ」
「これだけの人数で暮らしていれば、大変でしょうね」
「人数か……」
 部屋を見渡す、リビングは今日のために片付けて場所を空けたのだろうが、それにしても、住人の数を考えれば広いとは言えない。
「暮らしているのかな?」
 加持へと目を向けたのは、加持が彼らの監視役だからだ。
「まあ全員ってわけじゃないでしょうね、抜け穴でもない限り、普段の出入りはチルドレンの四人とレイちゃんくらいなものですよ」
「五人……、ホーリア君は?」
「ネルフの仕事が忙しいみたいで、不定期ッスね」
「そうか……」
 大変なのだなと心で労う。
「子供を働かせ過ぎるのは、どうかと思うが」
「そうですかね、やる気を削ぐよりはいいと思いますが?」
「やる気?」
「ええ、子供ってのは、エネルギーの塊ですからね、どんなに疲れたってすぐに回復します、健康のためだとか言って、大事にし過ぎると、今度はエネルギーを持て余して、空回りをはじめますよ」
「あの子も、そうなると?」
「さて、それはどうだか……、でもホリィちゃんは、シンジ君にくっついてこっちに移って来たわけですからね、立場が宙ぶらりんじゃ、落ちつかないでしょ」
「……時には体のことよりも、精神的な衛生を優先すべきということね」
「ああ、好くも悪くも、ネルフは変わって来てるからな、彼女くらいは受け入れられるさ」
 聞き咎めたのはゲンタであった。
「変わって来ている?」
 興味深いなと、話を広げる。
「わたしが来る前とは、どのくらい違うんだ?」
「そりゃもう、以前のくらぁいもんが、かなり薄くなってますよ、おかげで俺なんて、居心地が悪くて」
 真相を知っているリツコは、聞き役に徹することで逃げを打った。
 ネルフもまた組織である以上、暗部での活動もかなり盛んに行っている、しかし先日までの状態は、学者のリツコには理解できないほどに肥大化してしまっていたのだ。
 裏は表の影にあるからこその裏である、裏の者は表の者の影にあって活動するのが基本であろう、ところが肥大化し過ぎたが故に、彼らははみ出してしまっていた、人の目につくようになってしまっていた。
 通常職員ですらも、その存在と悪逆非道さを耳にし、嫌悪していたほどである、みな脅え、萎縮し、ネルフ全体に暗い空気を這わせていた。
 ──ところがだ。
「子供たちが、ちょうど良い戒めになったみたいでしてね」
 対抗処置や、制裁として行った数々の非道により、彼らが身を潜めるようになったのだ。
 おかげで、のびのびとしていられるようになった、というわけである。
「だがわたしの目には、それだけでは足りないように思われるがね」
「足りませんかね」
「この間の事件もそうだろう?、チルドレンが襲われたこと自体にも問題はあったが、チルドレンの『顔写真』そのものが広がっているについてが、重大なんじゃないのか?」
「確かに、人員不足は否めませんがね」
 初回の使徒戦において、初号機の暴走により、無駄に死亡者が出ていた、これが各部署に、人手不足を引き起こしている。
「ま、それに関しては、上で色々とやりとりがあるみたいですけど」
「やりとり?」
「ほら、何しろ来るか来ないか分からないってんで、今まではさほど気にされず放置されて来たわけですが、実際に使徒が来て、これがエヴァでなければ倒せないと証明されたとなれば、総司令の手腕にけちをつけたくもなりますよ」
「分からない話ね?」
「総司令を引きずり下ろしたいのさ、そしてそのトップに息の掛かった者を置きたいんだよ、そうすれば全世界から流れ込む莫大な資金と膨大な技術の恩恵に預かれるからな、今やネルフは利権の塊だよ」
「それで?」
「手が足りていないんだろう?、どうだろう、うちの優秀なスタッフはいらないかね?、……トップがだめなら、その下にってね」
「司令はどうしてるの?」
「突っぱねてるさ」
「金を詰まれることもあるんだろう?」
「あの人は金では動きませんよ」
 そうでしょうねとリツコは心中で同意した。
「豪遊している司令なんて、想像できないわ」
「ああ、金になんて興味ないんだろうな、その分……」
「なんだ?」
「息子さんの方が、ちゃっかりしてると思いましてね、親の分まで給料を請求してますよ」
 ぴんぽーんとチャイムが鳴った、新たな客が来たらしい。
 誰だろうと思ったゲンタであったが、ホリィに案内されて来た男の顔を見、絶句した。
「どうも、今日はお招きに預かりまして」
 と言ったのはミエルだったが……
「ゴドーか!?」
「山岸?」
 ミエルの後から入って来たのは、いかつい男、ゴドルフィンだった。


「驚いたな」
 心底そう口にする。
 ミエルはともかくとして、ゴドルフィンには米兵としての経歴があるのだ、国連の平和維持軍に従事した頃、彼はゲンタとの間に面識を持っていた。
 その時のゴドルフィンは、ただの小隊の隊長だった、銃を構えているのは、ゲリラが跳びかからんとしているからだ。
 ──交渉は決裂していた。
 某国、彼らはセカンドインパクトを契機に立ち上がった解放軍だった、国会を襲うついでに、それなりに裕福だった日系の縫製工場を襲撃したのだ。
 互いに発砲の機会を窺っている様な状況に陥っていた、その原因は間に立っている男にあった。
 彼らの前には、日本の会社から派遣されて来ていた山岸ゲンタが両腕を広げていた、彼の存在が平和維持軍をためらわせていた、そして、解放軍をも……
「撃つなら撃つが良い」
 彼は口にする。
「だがな、わたしの家族は、わたしを殺したお前達を許しはしないだろう、わたしの一族も騒ぐだろう、必ずわたしを殺した者を、その親族を、一族を、皆殺しにするために走り出すだろう!、国をも巻き込み、どうだ!、お前たちのせいで戦争が始まるんだっ、やるならやれ!、世界中から嫌われてみろ!」
 さあっと彼は一歩前に出た、そして解放軍は気迫に呑まれて下がった、勝敗がついた瞬間だった。
 ゴドルフィンは感心したものだった、そこまで『嘘』が言える根性にだ。
 民族単位での衝突の激しいこの土地の人間ならばともかくとして、日本人の気質はそれほど『熱い』ものではない。
 一人が殺されたからと言って、激昂するはずがないのだ。
 しかしその一件が、ゲンタの運命を変えていた、国連は彼を勧誘し、登用したのだ。
「今は国連で、嘱託のような真似をしているよ、なんでも屋だな、それで世界の注目を浴びている特務機関のお目付役を命じられたのさ」
 ゲンタとて、ゴドルフィンのことは良く覚えていた。
 解放軍を引き上がらせた後のことだった、工場に隠れていた現地の人間が飛び出して来て、ゲンタに抱きつき、泣き出したのだ。
 ──それで事情の全てが知れた。
 彼らは解放軍の人間から、敵として睨まれている部族の出身者ばかりだった。
 元々は、解放軍の主流派を成している部族の人間を、彼らの身内が車で跳ねたことから問題は発生していた、車を運転していた青年は、既に見せしめとして八つ裂きにされている。
 それでも彼らは満足せずに居たのだ。
 解放軍の人間は気がついていたのかもしれない、彼らが工場に隠れていることに。
 ──ゴドルフィンには、それはが許せなかったのだ。
 民間人が、軍人を差しおいて死のうとしたことが。
 本当は工場ではなく、人を守ろうとしていたことが。
 なんのために自分が達が居ると思っているんだと、キレたのだ。
 これに対して、ゲンタもキレた、知ることかと、俺の仲間を、俺が守って何が悪いと。
 皆が唖然とする中で、二人は殴り合いの大喧嘩を演じた、職業軍人のゴドルフィンの拳に堪えたと言うのだから、ゲンタも中々のものだった。
「ゴドーは、どうしてここに?」
「前の仕事で面倒を見た連中が、丸ごと引き抜かれてな」
「誰に?」
「彼女にだよ」
 顎をしゃくって見せる、その先に居るのは……
「綾波君の、妹さんか」
「裏では、ホワイトテイルと呼ばれてる」
「……」
「なんだ?」
「いや、どうしてそういう恥ずかしい二つ名を付けるのか、俺には理解できなくてな」
「まあ、伝統のようなものだな」
 グラスを揺らして、教えてやる。
「そのはじまりは様々だよ、コードネームが通り名として語られたりな、自分から名乗れば、物笑いの種になるだけだがな、彼女の場合は、自然とそう呼ばれるようになった、それだけ驚異だということだ」
「わたしには、どこが怖いのか、分からないが……」
「コードネームなんて、普通は一回限りのものだろう?、なのに通り名になっている、それは長く生き抜いてる証拠だよ、実力の証明だな、後は……」
「後は?」
「後は……、知らない方が良い」
 ゲンタは頷いた、身をもって知ることになるのは、嫌だからだ。
「しかし人を雇っている?、何かを企んでいるのかな?」
「さてな……、下の連中なら、知っているかもしれないが」
 下の連中?、ゲンタは怪訝に思い、質問した。
「どういうことだ?、雇われたんだろう?、あの子に」
「いや、雇われたのは、俺以外の連中さ、俺は」
 とシンジへと目を向けた。
「彼に雇われたんだ」
「同じことじゃないのか?」
「どうも違うらしいんだな、これが」
 仲間同士で、牽制し合っていると、彼は示唆した。
「どうも、自由にさせ過ぎるのは好くないと思っているらしい、それで彼女の直属の兵隊の隊長に、俺を推したわけだ」
「お目付役か……」
「むしろ緩和役だろうな、周囲の視線というものを計算に入れて動くことができない連中ばかりだ、立ち回りをうまくやらせろって言うんだろう」
「なるほどな……」
 顎に手を置いて考える、提供された資料を見る限り、彼らは非常に印象というものを上手く利用している。
 ネルフ本部、発令所での殺傷事件についてもそうだ、あの時のことがあったから、彼らは重要職の者から、言動に一目を置かれている。
 でなければ、子供の言うことだと、一笑に付されて、それで終わらされて来ていただろう。
 ──その隣では。
「担任、ですか?」
 はいと会釈する彼女に対して、リツコは警戒心を募らせた。
(あの学校は、ネルフの監視下にあるはずなのに……)
 チルドレンをまとめて保護するために、特別学級を用意している、当然、監視もきつくしている。
 それをかいくぐって、どうやって?、と訝しむ。
 役所や警察と同じく、教育委員会にもまた、MAGIシステムは組み込まれていた。
 第三新東京市のあらゆる機関には、コンピューター管理都市のモデルケースだと説明をして、MAGIシステムを導入させている、これは義務なのだ。
 そこに介入したとでも言うのだろうか?
 あの子たちが裏で何か?、とも考えたのだが、それはないと思い直した、ハッキングとクラッキングは違うものだ、情報を覗くだけなら……、それも通常は不可能に近いことなのだが、確かに可能だ、しかし操作となるとそうはいかない。
 不正なアクセスによる不正な書き換えは、MAGIに『記憶違い』かという違和感を抱かせる、MAGIは『覚え違い』の修正を行うと同時に、原因もまた追求する。
『人間』的にだ。
 これを乗り越えるためには、大量のデータ改竄が必要となる、それも、MAGIと言う通常のコンピューターとは違うシステムとOSを理解した上で行わなければならないのだから、垣根の高さは尋常ではない。
 走っているソフトウェアの言語については、一般的な『機械語』に酷似しているので、どうにかできるかもしれないが、それを走らせているOSは、非常に一般的ではないのだ。
(なのに、どうやって……)
 MAGIの目をかいくぐらせたのか?
 非常に気になるところではあったのだが、リツコは訊ねないことにした、事前に釘を差されていたからだ。
 ──総司令執務室。
「詮索はするな、と?」
「そうだ」
 頼まれもしないのに、藪をつつく真似をするつもりはなかったのだが、そう命じられれば興味も湧く。
「理由を訊いても?」
「これ以上の刺激は、無用の行動を促すことになりかねん」
「そういうことですか」
 油断を誘うという言葉があるように、無用な警戒心を与え、身構えさせることはないのだ。
 難敵へと成長させるより、現状を維持した方が無難だろう。
「ただし、会話には気をつけろ」
「情報の収拾ですか?」
「いや、惑わされるなということだ」
 ゲンドウの言いたいことは、こうだった。
 人とは小さな噂に惑わされ、軽挙妄動に走り出すものである。
 シンジ達のやり口は、実に『ゼーレ的』だとゲンドウは説明した。
「MAGIにしろそうだ、高レベルにある情報の書き換えは不可能だろうが、下位になると分からん、大量に誤情報を流されでもすれば、上位にある情報自体にも狂いが生じる」
「それが彼らの常套手段であると?」
「人の目を引くやり方を心得ているように感じられる、職員の殺傷事件についてもそうだ、恐ろしいものだとして印象づけることに成功している」
「芝居であったというのですか……」
「どこまでが芝居かは分からないがな」
 ゲンドウが左目を細めたのは、ホリィの面接を行った時のシンジの様子を思い浮かべたからだった。
 本当に利己的であったなら、相手方に引き渡すような真似をするはずがないのだ。
 それを良しとしたのは、よほど力を過信しているのか、あるいは……
「……シンジの起こしている事件が、誇張され、支部にまで広がっている、あるいは外の組織にもだ」
「はい」
「間違いない、あの時、あそこまでする必要はなかった、手を出すにしても、あれほど短絡的に、『むごい』手段を取ることはなかった」
 オペレーターが嘔吐するほどの視覚的効果を狙ったのだと、ゲンドウは穿った見方をしていた。
「金のことについてもそうだ、真剣に欲していたわけではなかろう、だからこそ催促をしてこなかった、では理由はなんだ?」
「……金で動く、ということを印象付かせるために?」
「わからん、あるいはそう見えるように見せているだけかもしれん」
 それではきりがないじゃないですかとリツコは思った。
 相手の行動と言動の意味を、どこまで疑えば良いのかが分からない。
「この疑心暗鬼こそが、自滅への道となる、だからこそ注意しろ、君はそれが出来る人間だと信じている」
「分かりました」
 ……そんな会話があって、リツコは興味の段階で切り上がるよう、詮索にはならない範囲で問いかけた。
「先日の修学旅行にも?」
「ええ……、少し、大変でしたけど」
 大変どころではなかっただろうにと考える、社交辞令には見えない、やはり神経がどこか普通ではないのだろうと、感想をつけた。
 一方、加持はやれやれと肩をすくめていた。
「ゴドルフィン・クリスバレイ、彼に奥さんが居たとはね」
「残念ですか?」
「俺は男に興味は無いぞ」
「僕はミエルさんが人妻で、って意味で聞いたんですけど?」
 とぼけるシンジに、加持はにやついた笑みを浮かべた。
「まさかなぁ、人妻好きのシンジ君に、そんなことを言われるとはなぁ」
「なんですか、それは」
「フリーの子と妻帯者、落とした数はどっちが多いんだ?」
「秘密です」
 とんでもない弟子を取ったもんだと皮肉ってみる、それから少女達へと視線を投じる過程で、加持は一人、重要な人物が足りていないことに気がついた。
「渚君はどうしたんだ?」
「カヲル君なら……」
 ばつんと、照明が落とされた、続いてスポットライトが階段上の踊り場に。
「……」
 加持はあんぐりと顎を落とした。
「歌は良いねぇ、歌はリリンが生み出した文化の極みだよ、そうは思わないかい?」
 バックになにやら怪しげな曲が……
 袖口にびらびらとしたものが付いた白い服を着て、マイクスタンドを傾けて……、その格好に思わず呟いたのは、リツコとミエルの二人であった。
「エルビス……、のつもり?」
「いいえ、あれは『にしきのあきら』ね」


「はぁ……」
 偶然にもキッチンに居たことで、マユミは訳の分からない演出に呑まれることなく、順調に落ち込むことができていた。
 お酒を持って来ますと逃げ込んだのは、マナの言葉があったからだった。
 ──そういや、『あの時』、男の人とどこかにシケこんでたんだっけぇ?
 そんな皮肉に、買い言葉で応じてしまったのだ、柄にもなく。
「『ロイ』さんは、そんな人じゃありません!」
 ──お名前……、教えて下さい。
 ほんのひとときの触れ合いだったとは言え、マユミにとっては数少ない心の内を明かした青年だった、だが……
「……」
 むむむむむっと、マナの不機嫌指数が上昇した、ロイ、などとシンジが好きなくせに、他の男の名を口にするなんて生意気だ、と。
 そして憤慨し……
 マユミがいなくなってから、マナもまたヤケを起こしてぶちまけていた。
「なんなのよ、あの子は!」
 聞き咎めるアスカである。
「突っかかり過ぎよ、あんた」
 グラスに液体を注ぎ込む。
「なにそんなに苛ついてんの」
「気に食わないから!」
 そのグラスを奪い取った。
「はぁ……」
 聞こえた台詞に、マユミは半分涙ぐみながら、必死に堪えた。
「わたし、何か嫌われるようなことを、したんでしょうか?」
 一人ごちる。
 決定的になったのはロイのことであったのだが、その前から嫌われていたのは明確だった、だがその理由に見当がつかないのだ。
 一人で悩んでいると、誰かがやって来た、顔を上げて、マユミは慌てて立ち上がった。
「どうしたの?」
 ホリィであった、両手に空になった酒瓶を持っている、目を丸くしているのは、うずくまっていたマユミの目に、涙を見付けてしまったからだ。
 瓶を置いて、ポケットを探り、ハンカチを渡す、今日はドレスアップしていたために、ハンカチもまた特別に良いものだった。
「ごめんなさい、もう、大丈夫ですから」
 気後れしながらも、マユミは涙を拭かせてもらった。
「とてもそうは見えないけど」
 数種のジュースと、アルコールを混ぜて、氷を入れ、掻き回す。
 ホリィは即席のカクテルを作って、マユミにすすめた。
「どうぞ」
「すみません……」
 おずおずと口付ける。
「おいしい……」
 口当たりの柔らかさから、広がる甘さを堪能してしまうマユミである。
 そう、よかったと、ホリィは微笑んだ。
「マユミさんは、甘い物が好きなのね」
「あ……、ごめんなさい」
 頬を染めて、俯いてしまう。
「また謝ってる」
 クスッと笑う。
「ありがとうって、あたしがお礼を言うところじゃない」
 おかわりはと訊ね、新しいグラスを用意する。
「みんなは、炭酸を多めに入れた刺激の強いものばかり欲しがるから……、あまり作る気がしないの、味なんて二の次なんだから」
 はいと二杯目を渡し、自分の分も用意した。
「落ち着いた?」
「はい」
 ありがとうございますと、今度は正しく礼を述べた。
「そう、好かった」
 微笑みを浮かべる。
「せっかく来てもらったのに、楽しんでもらえなかったんじゃ、悪いから」
「そんなことありません」
「じゃあ、どうして泣いてたの?」
 言葉に詰まって、マユミは俯いてしまった。
 目をさ迷わせているのは、どう護魔化せばいいかを悩んでいるからだ、マナのことは言いたくなかった、陰口を……、悪口を言うようだから。
 だがホリィは、そんなマユミの心情を全て見透かしていた。
(優しい子なのね、辛いくらいに)
 色が見えるのだ、全てを吐き出してしまいたいと願う心を、そんな自分を嫌悪する『膜』が覆い隠そうとしている、それは暫くすれば殻となって、本心を閉じ込めてしまうだろう。
 だからホリィは、あえて見抜いてやることにした。
「マナのことなら、許してあげてね」
 脅えた目を上げたマユミに対して、ホリィはグラスを掲げて見せた。
「あたしも、アスカも、あの子には嫌われているの」
 あなたと同じねと、マユミに笑った。
「そうなんですか?」
「うん、とくにアスカがそうね、ドイツじゃあの加持って人と同じ髪型にしてたくせに、日本に来た途端、シンジに好かれるように合わせてって、虐められてる」
 笑いごとのようにして、語ってみせた。
「あたしたちはね、お互いにお互いのことなんてよく知らないままでいるわ、どうしてシン……、シンジと知り合ったのか、この街で一緒に暮らすことにしたのか、それさえも話したことも、訊ねたこともない、でもね?、どれくらいシンが、シンジのことだけど、シンが好きなのか、それくらいは分かるわ」
 マユミの目をじっと見据える。
「マナはね……、あなたがきっと羨ましいのよ」
「わたしが?」
「だってそうでしょう?、『マユミ』はあたし達と違って、普通の女の子だから……、普通の女の子として、シンの傍に居られるから」
 口をつぐんでしまったのは、ホリィの言いたいことが、マユミには今ひとつ良く分からなかったからだ。
 ホリィは苦笑して、解説してやった。
「羨ましいのよ、マナは、一緒に学校に行けるあなたがね」
 ああと、ようやくマユミは納得した。
「マナさんは……、好きなんですね、碇君のことが」
「ええ」
「ホリィさんは、それで良いんですか?」
「わたし?」
「だって、ホリィさんも、碇君のことが……」
 そう言えば、と思い出す、この人は一体シンジとどういう関係の人なのだろうと。
『前』の記憶の中には出て来なかった人物だけに、気になってしまった、もちろん、それが『視え』ないホリィではない。
「好き……、だけど」
 ホリィは冗談っぽく、う〜んと悩み、考えた。
「多分、まだ、興味に近いかな?」
「興味?」
「そう、だってシンって、変でしょう?」
 片目をつむって見せる。
「だから、気になるの、引き寄せられてく、離れられない、でも恋してるかって訊ねられると、微妙かな?」
 マユミはそっとかぶりを振ってから、顔を上げた。
「わたしも……、同じかもしれません」
「……」
「それに……、碇君だけなんです、一緒に居て、緊張しないでいられるのって」
 微笑み、肯定、ホリィはそれで良いじゃないと、マユミを認めた。
「深く考えることはないと思う……、だってシンはきっと、なにも考えていないから」
「シンジ君が?」
「いきあたりばったり、適当に、気楽に……、こっちが不安になるだけ、損をする、違う?」
 肩をすくめる仕草に、マユミはようやくクスッと笑った。
「はい」
「だからマユミが遠慮することはないの、マユミはマユミなりに付き合って上げて、シンと」
 それからと付け加えた。
「ほんとはズルになるんだけど、ひとつ教えてあげる」
「なんですか?」
 二人はこっそりと顔を近づけ合った。
「マナね、本音はマユミの態度が、もどかしくて堪らないのよ」
「わたしの態度が?、どうしてですか?」
「さあ?、それは本人から聞かないと」
 さあと背を押す。
「行ってあげて、マナはあれで良い子だから、きっと言い過ぎたかなって後悔してるから」
「はい」
 軽く手を振って見送る、と、クスクスとこぼされる失笑が耳に触った。
「アスカ?」
「ずいぶん懐かれちゃって」
 含み笑いを交えるアスカに、ホリィは返す言葉に迷ってしまった。
 そうねというのも癪であったし、冗談はよしてというのもマユミに悪いような気がしたからだ。
 結局、敗北を認めて、溜め息を吐く。
「なんとなく……、かまおうとするシンの気持ちが、分かる気がするわ」
「そう?」
「マナと違うタイプ……、シンと同じ、かまってあげたくなるの、放っておけないって言うか」
「似てるからね……、マユミは、昔のシンジに」
 はてと首を傾げたが、ホーリアは追求を諦めた、昔のシンジなど、想像できなかったからだ。
「アスカは……、知ってるの?」
「なにを?」
「マナが、マユミにからむ理由」
「そりゃ……」
 言い辛そうに。
「同じマ行で被ってるから」
「なんのこと?」
「謎ってことにしておいて、……そうね、求めてるものが似てるからかな?」
「え?」
「マナってさ……、自分を一番可愛がってってタイプでしょう?、本能的に感じてるんじゃない?、マユミが自分と同じ、『普通の恋愛』を嗜好してるタイプだって」
「普通の恋愛……」
 肩をすくめる。
「『目』が良いってのも善し悪しみたいね、そんなことも分からないなんて」
「恋愛なんて、したことないから」
「目に頼ってないで」
 自分の胸に親指を付ける。
「ハートで感じないと、鈍くなるわよ?」
「う……」
「もどかしいってのは、目で視て判断したんでしょう?、そんなことばっかりやってると、上っ面しか見えなくなるから」
「注意する……」
「うん」
 アスカは笑った、ホリィが理解してくれたからだ。
 何事にも理由があって、結果が出るのだ、この場合はマナの心情があって、オーラが立つ、となる、オーラだけを見ても、心の内まで知ることはできない、それでは顔色を窺っているのと変わらない。
 付き合いの上で重要なのは、相手の気配を察することではなくて、心を理解してあげることなのだから。
「それじゃあ、アタシも戻るかな」
 頭の後ろで腕を組んだアスカであったが、思い出したように、一つだけ付け加えた。
「ホーリィ?」
「なに?」
「浮気に寛容な女って、彼女としちゃあ最低だからね?」
 ……動悸に呻くホリィであった。


 ──ところで。
「アンタたち、いつまでボコにしてんの?」
 妙なワンマンショーを企画したバカ一匹と、その手下に落ちたトンマ二人を締め上げているのはレイ=イエルとマナだった。
「ぼっ、僕のうたおぉ!」
「いやっ、だから、俺は脅されて!」
「だから僕は嫌だって言ったのにぃ!」
 ……酒の肴にしては、不味いの部類に入るだろう。
 それを無視して、アスカはテレビを見ているレイへと目を向け、驚いた。
「ちょっと、なによこれ……」
 その声に、大人達も振り返る。
 そこには八ヶ岳にて軍を展開してる戦自の様が、リアルタイムに報じられていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作を元に創作したお話です。