現在、ジオフロントの外周に近い部分を走っている周遊道路には、一部に封鎖されている区間が存在していた。
警報器、カメラなどの監視装置が、部分的に動作不良を起こしているためである。
原因はまったくの不明であり、復旧の目処も立っていないのが現状である。
調査用に持ち込んだ機械までもが同様の動作不良を起こすことから、一部に潜んでいる不穏分子の仕業ではないかと噂されていた。
──そして今。
その区間のガード部分に、一匹の獣が腰かけていた。
髪を風になびかせて、眼下の景色を一望している。
その視線の先にあるものは……
●
「ふわぁ〜〜〜、あ……、あふ」
限界にまで口をあけ、大あくびをしたのはハロルドだった。
「しっかし、暇だよなぁ」
煙草を咥えて、火を点ける。
あまりにも緑の臭いが濃いからか、濁った空気が恋しくなってしまったらしい。
スパスパと一気に消費する。
「不謹慎よ」
そんなハロルドの態度をたしなめたのはミエルだった。
「『ゆるむ』のなら作戦行動の時間外にして」
「へぇい」
ハロルドは空返事をして、ぽいっと煙草を湿気た芝生に投げ棄てた。
「ハロルド……」
「大丈夫だって」
手を振って護魔化しをかける。
「これだけの組織だぜ?、保健衛生局くらいあるだろう?」
「仕事を作ってあげたって言うの?」
「そういうことさ」
「でもいま保健衛生係をやらされてるのは……」
「わかったよ」
ちえっと立ち上がり、ハロルドはしぶしぶ吸い殻を拾うことにした。
場所は本部正面の道路脇に設置されているベンチシートである。
そのシートを占領しているのは三人、ハロルドとミエルと、Aであった。
「大分絞り込めた?」
「そうだな」
Aが整理しているのは、ミエルが聞き込んで来た『噂話』の類であった。
ノートパソコンのキーを、押すようにして叩いていく。
「これを見てくれ」
「どれ?」
「周遊道路の南側付近に出没証言が固まってる、それと監視装置の故障も多発してる」
「少なくともただの噂じゃないわけね?」
「間違いなく何かが棲息しているな、それも頭の良い獣だ」
冗談じゃないぜとハロルドは戻った。
「生体兵器なんてシャレにならんぜ?」
「生体兵器?」
「ああ、俺の仕事ってのは、大半が政府筋の研究機関の爆破だっただろう?」
「その中にはそう言った施設もあったわけだな?」
「まあな」
ミエルの隣にどっかりと座って、三本目に火を点ける。
「テロ組織からの依頼でやったの?」
ハロルドは全く隠さず肯定した。
「そりゃあテロリストのやることなんてむっちゃくちゃだよ、相手は国とか企業だからな、拡大解釈して市民民間人も吹っ飛ばしやがる」
「あなたもでしょう?」
「俺は確信犯だから良いんだよ」
「どこが……」
「『信仰』を持ち出して免罪符にしてる連中たぁ違うんだよ、ま、罪の意識は感じてるわけでもないけどな」
「……」
「どんなことだって神の教えに従ってるんだから間違ってないってな?、本気でそう思ってる馬鹿野郎とは違うんだよ」
「やってることは同じなのに?」
「俺は吹っ飛ばしたいからやってるだけなんだよ、正義を唱えてる『お高い』連中とは違うさ」
「……」
「けったくそ悪いぜ?、連中はやるだけやってから、わたしが悪ぅございましただからな、けどな、やられた側には大義も名分もくそも関係ねぇ、やられた人間は一生覚えてて、恨み続けるもんだろう?、憎み続けるもんさ、それで良いんだよ、そうやって大騒ぎするところが見たいんだからな、俺は」
「精神異常者……」
その通りさと愉悦を浮かべる。
「俺のは病気なんだとさ」
「病気?」
「そう……、性格、って言いたいところなんだけどな、昔、精神科医だったって野郎に言われたよ、ほれ、整頓されてる部屋だと落ち着かなくて、どうしても散らかしたくなるってこと、あるだろう?」
ミエルは前にも聞いた覚えがあるなと首を捻った。
「それの強烈な奴が俺の病気なんだとさ、心のどっかに傷があるから、止めようが無い破壊衝動が沸き上がるんだとかなんとか、ま、俺にとっちゃどうでも好いことなんだけどな」
くくくと笑う。
「やることやんなきゃ、落ち着かねぇ、それが変わるわけじゃないんだから」
ハロルドは狂気の笑みを浮かべたが、ミエルの視線に気がつき、改めた。
「ま、良いじゃねェか、俺が相手をしてんのは、後で神様に懺悔しときゃあ、全て『チャラ』になると思ってるような連中だけだよ」
「その中には、教団も含まれるのね」
ミエルは北方の地でのことを思い出し、身震いをした。
「お願いだから、ここではしないでね?」
「わかってるよぉ、ここの連中は神さまなんざ信じてねぇ人種ばかりだからな、つまんねぇし、やんねぇよ」
ぷらぷらと手を振る。
「ただ落ち着かないのさ、俺たちはモグラみたいな生活をして来たわけだろう?、それが今はお日さまの下を歩いてる」
「お日さまねぇ……」
と天井を見上げる。
自分たちはこのところ、その上にある街で、普通の人間として振る舞っている。
「動物ってのは、環境が変わるといらつくもんさ」
「それはまあ……」
でもと反論する。
「ならどうして大人しくしてるの?」
「一つ」
指を立てる。
「ホワイトテイルが怖い」
もう一本。
「ここはな……、嗅ぎ慣れた臭いがするんだよ」
「嗅ぎ慣れた?」
「そう……」
ハロルドは鼻をクンと鳴らして見せた。
「胡散臭い気配と、きな臭い匂い、平和だなんだって『お題目』とはまるで逆のもんが滲み出してやがる……、どっちかって言うと、住み慣れた世界に近くねぇか?」
そんなものだろうかと訝しむ。
「だから様子を覗きに来たの?」
「ダンナも同じ理由だろうぜ」
「ファスも?」
ああとハロルドはその呼び方に対してからかいたくなる気持ちをなんとか押えた。
「世界の平和を守るための立派なお仕事なんてものの手伝いを、あのダンナが本気でやると思ってんのか?」
「……」
「ダンナだって、かなり剣呑なおっさんなんだぜ?」
ハロルドがそんな具合に警戒しているゴドルフィンは、今はフェリスを伴って、本部内にある情報閲覧室を訊ねていた。
フェリスには武器がある、それは誰にも真似のできない武器である。
ゴドルフィンは目視したものをそのまま記憶し、情報として活用できるフェリスという人間を、生きたライブラリとして用いることに決めていた。
本部の地図や、警備網、その他、引き出せるだけの情報を引き出し、次々とフェリスに記憶させていく、これは後で武器になる。
MAGIへのアクセスを封じられたとしても、フェリスが居れば問題は無い。
「しかし無茶をさせますねぇ」
その作業にはゴドルフィンだけでなく、加持も同伴していた。
扉を間に挟んで、二人とも壁にもたれかかって、フェリスの『学習』が終わるのを待っている。
いかめしい面のまま、ゴドルフィンは腕組みを解かずに問い返した。
「なにがだ?」
「だってそうじゃありませんかね?」
面白そうに顎鬚をさする。
「人間の脳の記憶領域は、無限じゃあない」
「……」
「実際、報告例がありますがね、この手の症例ではまず間違いなく早い内から『惚け』が始まる……、新しいことを覚えられず、古い話ばかりをくり返すようになる、まあ、本当の老人性痴呆症は、代謝機能が落ちて領域の再構築や整理整頓が上手くできなくなった状態を言うんですが……」
脳の細胞は幼い頃に作り上げられ、死滅はしても再生はされないと言われている。
病状は違えど、フェリスの症状は同じと言えた、膨大な情報が整理も破棄もされずに蓄積されて続けていくのだ、いつかは限界が訪れ、飽和する、そうなれば彼女は、介護なしには生きられない状態になるだろう。
このような作業は、その病気を悪化させるだけだと、わかりきっているのである。
「時限爆弾のようなもんじゃないんですかね?、いつリミットが来るかわからない」
「だからと言っていまさら普通には生きられん」
「生かしてやろうってつもりは?」
「彼女自身が望んでいない」
「育ちの悲しさってのは、辛いもんですか」
不可解だと感じたのはゴドルフィンだった、言っていることは酷く常識人のそれなのだが、顔が言葉を裏切っている。
──面白がって見えるのだ。
少なくとも言葉ほどに責めているつもりはないように見える。
「……君の経歴については、調べさせてもらったよ」
「そりゃあ……」
にやりと笑う。
「なにか出て来ましたかね?」
溜め息を吐く、生半可な脅しでは通じないらしい、ならばと彼はカードを切った。
「こういうものが、出て来たよ」
加持は怪訝に、レシートのようなものを受け取った、目を通し、壮絶に引きつる。
「こ、これは……」
「その行動は命取りになるぞ」
まったくと嘆息する。
「女性職員目当てと見せ掛けて、会計監査部に紛れ込み、水増し請求を行って、デート代を捻出していたとはな」
しかも。
「『彼』に支払われるはずの給与を使って」
脂汗を滲ませる。
「こ、このことは、シンジ君には……」
「言って欲しいか?」
加持はぶるんぶるんとかぶりを振った。
●
「ふわ……、ふわ、ふわっ!」
うわっとアスカは、ハンバーガーなどが乗ったトレイを、素早くテーブルの上から横にどけた。
はぁ……、とくしゃみをしそうなシンジだったのだが……
「引っ込んじゃった」
がくっと崩れる。
「なんなのよ……」
「ごめん」
謝るシンジに、まったくと怒りながらトレイを戻す。
ファーストフードショップだ、シンジの隣にはマユミ、アスカは二人の正面に居た。
「なんだか急にくしゃみがしたくなったんだけど……、なんだろ?」
「変な病気でも貰ったんじゃないのぉ?」
「誰にだよ」
「心当たり多いくせにぃ」
「あのね……」
思わずはらはらとしてしまうマユミである。
(はぁ……)
心配症が過ぎるのかもしれない、冗談だとわかってほっとする。
「あっ」
驚いたのは、アスカが覗き込んで来たからだった。
「なぁに一人で暗くなってんのよ?」
「その、あの……、ごめんなさい」
はぁ〜あっと、アスカは大袈裟に肩をすくめて見せた。
「あんたって、ホントに昔のシンジにそっくりよね」
「なんだよ……」
「悩まなくてもいいようなことで、勝手に暗くなってウジウジしちゃってさ」
「……」
「だいたい自意識過剰なのよ!、誰もあんたのことなんて気にしてやしないんだから、勝手に、楽しく、自由にやってりゃ良いのよ!、その方が面白いに決まってんだから」
マユミに代わって、シンジが訊ねる。
「そのわりには苦労性だよね」
「だっれっのっせっいっよっ!」
ガスガスガスッと脛を蹴る。
「痛いって!」
「あんたはもうちょっと周りのことを気にした方が良いのよ!」
言ってから、おやっとアスカは首を傾げた。
シンジの顔つきが変わったからだ。
「なによ?」
「やめたんだ……」
シンジはそっぽを向いて頬杖を突いた。
「他人の目を気にするのは……、それに、他人に甘えるのも」
「そう……」
「今の僕には、『レイ』が居てくれる、それで十分なんだよ」
片側の目尻に皺を寄せる、アスカは観察する時の目をしてシンジの横顔を眺めた。
(ホーリィに、ファースト、マナにマユミ、あたしも眼中にはないってわけね)
剣呑になってしまうのは、自分だけが唯一『契り』を躱した相手なのだという意識があったからかもしれない。
自分たちの存在は、シンジにとって喜び、楽しみ、癒しにはなっても、支えにはならないのだろう、それがよくわかってしまった。
(だからって、ねぇ?)
ただれた関係になるほど大人ではない。
揚げ句に性行為に興味を覚えてふけるほど幼稚でもない。
中途半端な自分たちがここに居る。
(どうなんだか)
結局、ふてくされてしまう。
「ま、それよりも今はこいつのことよね」
「わ、わたしですか?」
「そうよ……、シンジ」
「うん?」
「いつになったら安全だって言えるようになるの?」
「さあ?、とりあえずジオフロントの掃除をやってるらしいから、それが終わってから地上、都市部でしょ?、監視網の復旧はもう終わるらしいし、すぐじゃない?」
「なによ、結局ネルフを当てにしてんの?」
「そりゃそうさ、どうやったって僕たちだけで守れるわけはないんだから」
ふうんとアスカは口にジュースを含んだ。
「案外あてになんないのねぇ、あんたらも」
「だから面白いんだな、人生は」
「ばか、それで危ない目にあってたら意味ないじゃない」
いいやとシンジは笑ってみせた。
「切り抜けて見せるさ」
「……」
「それくらいでないとね、何も掴めやしないんだよ」
「掴む?、なにを?」
シンジはにやりとして言ってやった。
「楽しい人生、未来、将来……、かな?」
●
松代。
新横須賀基地。
「ふん」
鼻を鳴らしたのは、先にマナの件でどうしたものかと苦慮していた男であった。
今日は制帽を被っている、階級章は陸将補を示していた。
「このような時だからこその、横須賀か」
つばで顔を隠そうとする。
ここは米軍の支配下にある基地である、国連の息がかかり過ぎているために、今も監視の視線を感じるのだが、今日、ここで待ち合わせている相手とは、それすらも押さえ込める政治的強者であった。
戦自や自衛隊の基地ではなく、ここを接見の場としたのはそのためだろう、ここならば米軍以外の組織の目や耳や手のことを考えなくても良いからだ。
米軍のことだけを考えれば良い、その米軍が多くの敵勢力を防いでくれる。
彼はもう長いこと、滑走路の脇に一人で待機して待ちぼうけていた、照り付ける日差しによって焼けたコンクリートが、酷くかげろうを立てている。
「来たか」
制帽を被り直し、崩していた姿勢を正す。
かいた汗だけはどうしようもない。
海の向こうから、ゆっくりと大型の輸送機が高度を落として来た。
──ファントムプレーン。
揺らぐ機影にそう呟いて、管制塔へと目を向ける。
今頃は大騒ぎしていることだろうなと、彼は多少面白く感じた。
●
「こちら管制塔、管制塔、そちらの所属を明らかにして、こちらの誘導に従え、従わない場合は……」
管制官は横合いから伸びた手に通信を切られて驚いた。
「大佐……」
「将軍の命令だ」
そっけなく答え、振り返り、皆にも伝える。
「相手はファントムプレーンだよ」
その場の全員が息を呑んだ。
──ファントムプレーン。
それは二十世紀中にとある空港にて起こった、奇怪な事件に由来を持っている呼称であった。
その記録は、現実のものとして残されている。
──その機体は、消息を断ってから、数年後に帰って来た。
当時、その空港は軽いパニックに陥ったと言う。
何度通信を試みても応答しない機体、それが着陸して来ようとしてる。
再三の交信要求に対して、無反応のまま着陸したその機体は、そのまま沈黙し、まったく動きを見せなかった。
誰もが気味悪く思いながらも、空港警備隊の隊員が、機体を調べに向かったのだが……
その中には、生存者は、一人も存在していなかった。
全員がシートに着いたまま……、ミイラと化していたのである。
パイロットまでも。
調査の結果、間違いなくいつかの日に消息を断った旅客機であることが確認されたのだが、数年もの間どこをさ迷っていたのか、あるいは死者のみの状態でどうやって滑走路への着陸コースに乗ったのか、そしてどうやって着陸したのか、誰も答えを導き出すことはできなかった。
そんなオカルト的な事件を知っている者が語る中で、たまたま勢いに乗って名付けた名称がファントムプレーンであり、この機体の呼び名は、それに倣うものだった。
──大型輸送機がブレーキをかける、タイヤの軋む音、ゴムの焼ける悲鳴、オイルの焦げ付く匂いが鼻につく。
どこから飛び立ったものかわからない、突然空港のレーダーに現れ、問答無用で着陸し、何者をも受け入れない。
それがファントムプレーンである。
実害がないとは言え、気味が悪いことこの上ない、もちろんこれが幽霊機だなどとは、誰も露とも信じてはいなかった。
それは干渉するなとの命令、指示が下って来るからである。
だから誰もが、どこかの国の空中移動要塞、あるいは、空中司令部だとして噂していた。
「誰が信じるものか」
その正体が、とある宗教団体の隠れ里であるなどと、そして教祖の霊力によって、何年もの間、無補給のままで飛び続けているなどということを。
──輸送機は慣性を殺すと、ゆっくりと滑走路脇へと移動し、停まった。
男はそれを待って歩き出した、機体は男を迎え入れようとするように、その後部の口を開き始めた。
大型のハッチが展開される、ゆっくりと下ろされるハッチの迫力に息を飲まされる。
男は後部ハッチの甲板の寸前に立って中を覗いた、これだけの日の下だというのに奥の様子は確認できない。
まったくの闇で、見通せないのだ、まるで闇が光を食い潰しているかのようだった。
冷気すらも吹き出して来る、恐ろしさに苛まれるが、彼は意を決して一歩を踏んだ。
──ゴン。
とても冷めた音がした、彼も軍人である以上、輸送機のハッチから乗り込んだことは幾度もあったが、しかしその時にはいつも資材や兵員が慌ただしく働いていた、だからだろうか?、これほど無機質に感じたのは初めてのことだった。
──グン。
ハッチが勝手に閉まり出す、持ち上げられる。
彼は急かされるように奥へと進んだ、すると左右に明かりが付いて、道標を形作った。
(ろうそくか……)
連なる灯篭に驚いて立ち止まりかけたが、彼は平静を装うことに成功した。
(前部はC−130に似ていたが……)
C−130は自衛隊所有の輸送機であるが、後部の形状が違ってしまっている。
彼はそんなことをぼんやりと思案しながら歩き続けて、ようやく当然の疑問を胸に抱いた。
(どこまで続く?)
外から見なくともこれほどの奥行きがあるはずがない、なのに随分と歩かされてしまっている。
どのような手妻かと作りを疑い、注意する、一応目には可視光線を用いた催眠を受け付けぬよう、フィルタとなるコンタクトレンズを入れている。
内耳にもだ、可聴領域を外れる音をフィルタリングするための補聴器を埋め込んである。
ならばと肌で空気の流れを確かめるのだが、不自然に動いている気配はなかった、ならば足元が動いているわけではなさそうだ。
もう少し、と考えたが、そのような間は与えられなかった。
先に終わりが見えたからである。
(なんだ?)
奥に建物がぼんやりと見えた、まさかと思い、足を速める。
そして近づき、絶句した。
「社、か、これは」
一般の住宅ほどの大きさがある、暗闇の中にぼんやりと浮かびそびえ立つ、現実から遊離した雰囲気をかもし出し、威圧していた。
明らかに輸送機の中に納まる大きさではない。
(別の空間に繋がっている?、いや、まさかな……、ならば立体映像か?)
だが足元の感触がその発想を否定してくれた、靴が踏んだのはまごうことなき玉砂利だった。
(敷き詰めてあるな……)
軋むような重々しい音が鳴り響き、扉が左右に開き始める。
──ゴクリ。
彼は詰め襟に指を差し込んで広めに緩めた、体裁を取り繕う余裕を失っている証拠だった。
数段の階段を登り、そして扉へ……、奥に踏み入り、そして慌てる。
──バタン。
閉じ込められたのかと思い慌てて振り向くと、女が二人控えていた、巫女の衣裳を纏っている。
扉を閉めた後は、横を向いたままで引き下がって行った、歳は若くはなかった、下手をすれば自分と同じ歳に見えた。
──暗がりの中に消えてしまう。
姿が見えなくなってしまった。
この狭い建物の中で……
「ようこそ……」
忙しく首を巡らせる。
最も奥になる位置に、簾越しに弱い光が洩れていた、その向こうに人影が見えた。
女のようで、正座している、小柄だった、子供のようだ。
脇には男が、錫杖を手に座していた、陰陽師、その顔は先日、坊主の扮装をしてアスカを襲った男だった。
制帽を取り、胸に当てる。
そうしてようやく、もう一人ゲストが居ることに気がついた。
「君は?」
「戦略自衛隊第十三独立部隊隊長、笠置さんですね?、加賀と申します、内閣調査室の」
「内閣……」
なぜここにと訝しがる顔に、加賀は答えた。
「わたしも招待された口でして」
「君もか」
体を向け直すのを待って、男が簾を上げさせた。
そこに現れたのは、まだ幼いと感じさせる少女だった。
青い髪が、無駄に長く床の上を這っている。
しっかりと背筋を伸ばして正座していた、線の細さが余りにも脆い印象を抱かせる少女だった、しかしそれ以上に笠置の体を強ばらせたのは、彼女の顔形そのものだった。
──ファーストチルドレン!?
髪の長さこそ違えど、切れ長の目、白い肌、赤い瞳などは、そっくりそのままの造形を写し込んでいた。
「あなたが……、その、神子さまなのですか」
その少女はまさにレイを思わせる、かすかな仕草で頷いた。
●
──時に西暦2013年。
その時、少年はとある屋敷の世話になっていた。
「ふふ……」
少年に対して、艶を含んだ妖しい笑みをこぼしたのは、妙齢の女性だった。
「嫉妬しているのよ、あの子はね……」
少年はおどおどとして問い返した。
「そうでしょうか?」
「わたしに取られると思っているのよ」
「でも、やっぱり……、僕は居ちゃいけないんじゃないかって」
殊勝な面持ちで少年は夫人を見上げた。
「身よりのない僕を引き取ってくれたことには感謝しています……、でも」
「いいのよ、いいの……」
和服を普段着としていることからも、家名の格を知ることができる、彼女は少年を抱きよせると、可哀想な子だと慰めた。
「あなたはなにも心配しなくて良いのよ」
「ミヨコおばさん……」
泣きそうな少年、潤んだ瞳には涙が溢れてこぼれそうになっている。
夫人はそんな小犬のような少年の『演技』に、きゅんきゅんと胸を高鳴らせた。
「お母さん、と呼んでも良いのよ?、『シンジ』くん……」
ふらふらと少年の唇に吸い寄せられていく……、と。
「失礼いたします」
ふすまに映った女中の影に、夫人は慌てて少年を離れた場所に座らせた。
「はい、なんでしょう?」
「お客様がまいられておりますが」
「客?」
「それが……」
ミヨコは何かわけありなのだろうと察して、少年に宿題は終わりましたかと問いかけた。
「はい」
少年、シンジはそんな夫人の心中を察して立ち上がった。
「じゃあ僕は失礼します」
女中には会釈をして通り過ぎる。
シンジはふぅっと、襟首を開けて溜め息を洩らした。
(ヤラれちゃうかと思ったよ)
間一髪だったなと、女中に感謝の念を送ろうとした……、ら、睨まれた。
(やっぱり歓迎されてないよねぇ……)
シンジは廊下の途中で立ち止まり、縁側の外の庭を眺めやった。
庭園は和風で、岩や苔、池、そして細木を利用して、自然の縮図を描き出されたものとなっている。
穏やかに風に揺れ、梢が静かな音を立てる。
時折スズメが鳴きながら舞い降りる、とても静かな空間だった。
(それだけ金が余ってるってことなんだろうけどさ)
切迫した世界事情を考えれば、略奪に合っても文句が言えない贅沢さである。
シンジは昼過ぎの太陽の眩しさに目を細めた。
庭を区切る竹柵の向こうの、『山』の頂へと思いを馳せる。
(二度目……、挑戦できるかな?)
●
九州、かつての島原半島、今は島原島と名称を改めるかどうか協議されているこの土地に、湾岸部より出港、あるいは寄港する戦略自衛隊所属の艦船を眺められる、大きな屋敷が存在していた。
セカンドインパクト後のドタバタの最中に、周辺一体を買い占めて建てたのだと言う、純和風の家屋だった。
そのような経緯一つ取っても、名家と口にするには出自からしてとても怪しい。
「はずなんだけどねぇ……」
少女は面白おかしく友人に語った。
「お母さんに言わせると、うちはほんとうにちゃんとした家なんだって言うのよね、没落したのがいつなんだかわかんないだけでさ」
ふうんと相槌が返された。
「それが『お山さま』のおかげで、力を取り戻せたんだって?」
「そうそう」
あ〜んっと、パンを食べる、サンドイッチ、シーチキンだ。
「お山さま……、神子さまのおかげで、株だのなんだのって、そうとう手に入っちゃってるみたいよ?、今じゃすっかり大地主になっちゃってさ、でもねぇ……」
少女は嫌そうな顔をした。
「今度はどっからか忍び込んで来た男の子を、あたしの弟にするから、可愛がれって言うのよね」
「なにそれ?」
「変でしょ?」
「うん、おかしい」
かなり気心が知れているのか、友人も言葉に遠慮が無い。
高校生、二人の年齢は胸の大きさと制服から知れたが、友人の側は身長も飛び抜けて高かった、百七十はあるだろう、ポニーテールの先が咀嚼に合わせて揺れている。
「その忍び込んで来たってなに?」
「孤児らしいのよ、それで何か盗もうとして忍び込んで来たみたい」
「それで可哀想な子だって同情して?」
「そんなとこ」
う〜んと唸った。
「あんたのとこ、結構噂されてるじゃない?、成り金の成り上がりだとかってさ、お山様にうまく取り入っていい気になってとかって」
「あたしももうどうしちゃったんだろうって感じだよ、そりゃなにしようとお母さんの勝手だけどさ」
「一歩間違えば成り金の道楽だよね、孤児拾って養ってやることに決めたって」
一応のつもりで友人は訊ねた。
「その子、嫌な子なの?」
「ン〜ん、全然、良い子だけど?」
「なのに嫌なの?」
ちょっとねっと高梨ミナホは、御剣リョウコに答えた。
「なぁんかこう、スレてるところがあるのよね、生きててごめんなさいとかって雰囲気滲ませててさ、そうしてればみんな甘い顔してくれるんだって部分、知ってるって言うか」
わかる、わかるよぉと頷いた。
「そういうのって、あるよねぇ……」
「うん、無意識なのかどうなのかわかんないけど」
でもとミナホは口にした。
「そんな子が盗みに入る?」
「追い詰められてってことはないの?」
「あるかどうかわかんないから困ってるのよ」
ふうんとリョウコは鼻を鳴らした。
「一度会って見たいな、その子、シンジ君?」
「リョウコ?」
まさかとミナホは身を乗り出して訊ねた。
「だめだからね」
「え?」
「いっくら男の子みたいだって言われてるからって、高校生が小学生に手を出したら犯罪なんだからね?」
「誰が出すかい!」
リョウコは唾を吐き散らして否定したが、その余りの焦り様に、ミナホはますます疑惑を深めた。
「レッツごー!」
ブィイイイイイインとモーターが音を立てる、白波を蹴ってボートが走る、操っているのはほんの少しだけ大人びたファンとファウの二人であった。
「やっほーい!」
そしてパラセイルによって高く舞い上がるのはレイである、場所はもちろん、島原湾であった。
「ふぅ……」
船に戻って、レイはぶるぶる震えて大いにはしゃいだ。
「おっもしろーい!、ファウもやる?」
「いい、遠慮しとく」
「だめよぉん?、今じゃもうえらいさんの子供なんだからね、どういうスポーツに興味が?、なぁんて聞かれちゃうこともあるんだから、なんでもやっとかないと」
ファンもファウも、今では大貫家の一員である、それなりに裕福な暮らしを送っている。
ファウは隻腕のファンがパラセイルの片付けに難儀しているのに気がついて、慌てて手伝うことにした。
「わたしがやるから」
「すまない……、なんだよ?」
にやにやとレイ。
「オシドリ夫婦?」
「……うるさいよ」
赤くなって照れる。
「それより、シンジはどうしたんだよ?」
ああっとレイ。
「だめだめ、いまお仕事中だから」
「そう……」
んん?、っとファウの顔を覗き込む。
「ざんねんそう……、会いたかった?」
「うん……」
「でもあっちはほっとしてるみたいだけどぉ?」
ファンはぶすっくれて答えた。
「そういうわけじゃないさ、でも」
「はいはい」
ぱんぱんと手を打ち鳴らす。
「どっちみちシンジには会えないんだから、気にしたってはじまりませぇん」
それはそうだけどと言い募ろうとするファウを、レイは制して注意した。
「ファウちゃんはファンを旦那さんに選んだんだから、シンちゃんを追いかけないの」
カーッと赤くなったファウを笑う、だが、心中では決して笑ってはいなかった。
●
「神さまぁ!?」
「そ」
「ほんき?」
「マジで」
素っ頓狂な声を上げたシンジに対して、レイは大真面目に頷いた。
「ま、話を聞いてよ」
座りましょ?、とシンジを誘う……、が、ここは岸壁、自殺名所だ。
ざっぱぁんと遥か下方で波飛沫がくだけ散る、男女で座ると、どんな目で見られるかわからない。
実際どうしたものかと背後で大騒ぎになっていた。
白いワンピースに麦わら帽子と言う、深層の令嬢を気取ったレイは、あっつーとかなり下品に、水色のアイスキャンディを頬張った。
「嘘か真か九州にね?、いるらしいのよ、マジモンが」
あ、っとレイ。
「信じてない?、信じてないね?」
うにーと頬を引っ張り伸ばされ、シンジはその手を払いのけた。
「痛いって」
赤くなった頬をきつめにさする。
「あのねぇ……、別に信じないわけじゃないよ、でもレイが認めるっていうのがさ」
珍しくてと言い訳をするシンジに対して、レイは帽子のつばを押さえて顔を上げた。
強い日差しが顔に影を作る、白い肌と合間って、素晴らしいほどの明暗だった。
「そりゃあね」
珍しく真面目な口調で語り出す。
「本物を嘘っていうのは簡単よ?、けどそれって認めたくないってだけじゃない?」
「……」
「認めないってわけじゃないもん、本物でもどっちでも良い、ただ敵か味方か、あたしはそれだけ」
シンジはそっと溜め息を吐いた、これまでにも幾度か神とおぼしき存在には出逢ったが、どれも友好的とは言い難かったからである。
「今度は仲良くできると良いんだけど」
「ま、無理なんじゃない?」
「……」
「なによぉ」
ぷうっとむくれる。
「神社仏閣の神さまなんてね、基本的にはおかざりなのよ、だってその声を中継するのは欲ぼけしてるお坊さんでしょう?、自分の願望で都合よく解釈して神様からのお言付けとして届けて私服肥やすのが基本じゃない」
「基本って……」
「やっぱ人間、我慢し過ぎてると歯止めを失った時がコワイよねぇ、トップに立った途端に欲に目が眩んで馬鹿になるってのはそういうことでしょ?、自分と神さまを混同しちゃうから」
シンジははぁっと溜め息を洩らした。
「それってようするに、神さまが居るかどうかなんて関係無しに、奉ってる人が教えに従ってるっていうのなら、金儲けには走らないってことだよね?」
「大体そんな感じだけどねぇ」
──遠くから、人々の酷く喚く声がする。
とある山に何十人という人が押し掛けていた、手にはシャベルやつるはしと言った武器になるものを持ち、松明さえも掲げていた。
人々はその神社を焼き落とすために殺到して……
「なにそれ?」
ん?、っとレイ。
「つまり、宗教戦争が起きたってこと」
「宗教戦争?」
「そう……、教会と地元宗教団体との抗争ね」
シンジは口を噤んで聞き入った。
「昔の九州にはね、たっくさんの教会があったの、知ってる?」
「テレビで見たことあるよ」
「それで上等、だけどね、ちゃんと神社仏閣もあったのよ、問題は、セカンドインパクトの後に、その人たちが何をしたかってことだったのよね」
「何かやったの?」
「別に?、ただ九州復興の象徴として、神社を再建しましょうって頑張っただけ」
はぁ?、っとシンジは首を傾げた。
「それのどこが問題になるのさ」
「再建費用がとってもバカになんなかったのよ」
シンジはなんとなく理由がわかるような気がしてしまった。
「世の中にはね?、まだまだ食うに困っている人たちが沢山居たの、当然、そういうのを見過ごせない人たちも居た……、そんな人たちがね?、叫んだの、そんなことをしてる場合じゃないだろうって」
レイは語った、日本人には目に見える範囲のことに囚われる癖があるのだと、手の届く範囲が片付いていないと、とても落ち着かない気分に陥ってしまうという性質があるのだと。
「パフォーマンス重視の姿勢が、気分の悪いものに見えたんでしょうね」
でもと考える。
「悪いことじゃないんでしょう?」
「そうね、頑張ろうって気持ちがなきゃ、人間は生きてはいけないんだから、目に見える形での象徴ってのは必要よね、それを見るだけでほっとできる何かってのは」
まあ、それは置いといてと話を戻す。
「問題はね、その教会の大半が、『教団』に恭順していたってこと」
風が、とても強く、冷たく吹いた。
「教団……」
「そ」
「じゃあ、宗教戦争って」
そういうこと、とレイ。
「まあ結果的にそういう図式になっちゃったってだけなんだけどねぇ、これが困ったことに、教団ってのは一種の多国籍軍なわけでしょう?」
複数の宗教団体を併合している以上、中には対抗意識を持っている者も紛れ込む。
「きっかけは簡単だったみたい」
「……」
「自分の国がどうなってるか、外の世界がどうなってるか、考えもしないで自分たちのことばかりを見ているのが許せない、教会じゃ建物なんて後回しにして、援助物資を無料で配布してるってのに、お前たちはなにをしているんだ?、自分たちの懐さえ無事ならそれで良いのかってね、飢餓難民のために運動をするべきじゃないのかって詰め寄ったのよ、それが言い合いから衝突に発展しちゃって、後は泥沼、一番の悲劇は教団の側に回ったのが在日なんとか人だったってことね、自分たちを土地の者じゃないからって助けてもくれない連中のことなんて知るもんかってね?、そしてそんな連中を相手にするには、日本人には暴力性が足りなかったの」
「足りない?」
「だってそうでしょう?、何かことが起こった時に、暴動も略奪も行わない民族っての日本人くらいなもんよ?、特に日本人ってのは、命がかかって来るような事態には慣れてなかったからさ」
「そうなの?」
「うん、今じゃ想像もできないけどねぇ、やってもせいぜい喧嘩だったんだって、殺すところまで行くのには抵抗があったんだってさ、でも」
「相手には……、なかった」
「そういうこと」
レイは面白いとばかりに凄惨に笑った。
「プライドとか、宗教的な教育とかさ、外国人には無宗教の日本人には想像も付かないような擦り込みがあるもんなのよね、その教えに従った暴力教団の信者を核とした難民混成暴動隊は、九州中の神社仏閣を区別しないで焼き払って回ったんだって」
それでとシンジは訊ねた。
「神さまはどこに出て来るのさ?」
「慌てない慌てない」
一休みっとキャンディをしゃぶる。
「もちろんどこまで本当なんだかわかんないんだけどさ」
んーっと難しい顔をする。
「何があったんだか、とある神社に乗り込んだところで、ぴたりと急に暴動は納まっちゃったのよ」
「へぇ……」
「まるで魂を抜かれたみたいになってね?、憑き物が落ちたみたいになって退散を始めて、暴動隊は解散しちゃったんだってさ、その中の何人かは、確かに神さまを見たんだって口にしたんだって」
シンジも難しい顔をした。
「何か……、何かがあったんだ」
「あるいは居た、何かが」
「本物じゃなくても、本物に思えるくらいの力を持った何かが?」
「そういうこと」
そこで、今回のミッションよ、っとレイはキャンディを突きつけた。
「その神さまが本物かどうか確かめるの」
「え〜〜〜?」
「だってしょうがないのよ……、お偉いさん連中がけっこうはまっちゃってるみたいでさぁ、お伺いに行かないと、なんてね?、けっこう馬鹿にできないんだもん」
「だからってなんで僕が」
文句言わないっと叱り付ける。
「もう潜り込むための『段取り』は付けておいたから」
にぃっと笑ったレイに対してムッとして、シンジはレイのキャンディに噛みついてやった。
「あーーー!」
──そんなわけで。
(まったくさぁ……)
シンジは文机に向かって正座し、買い与えられたドリルを解きながら内心で愚痴った。
(そりゃ失敗しちゃったんだけど)
はふぅっと障子戸の向こうに見える山の頂に想いを馳せる。
『何やつ!』
山の上の神殿の、さらに深い場所にある奥の殿。
その中の秘密を覗き見ればそれで終わるはずだった仕事に失敗し。
(まったくさぁ……)
『臨・兵・闘・者』
印を切って放たれたものは式神だった。
頭に大きな口を持ったのっぺらな怪物、どこか第六使徒ガギエルに似たフォルムを持った怪物数匹に追い回されて……
そしてここに逃げ込んだのだ。
『誰!?』
夫人に見つかった時、あまりにもみすぼらしい格好になってしまっていたからか、誤解され、餌付けされ、仕方なく盗みに入った、帰る家なんて無いなどと嘘に嘘を重ねて、そうして現在に至ってしまっている。
(レイもレイで、おばさんがあそこの神社と繋がりが深いってわかった途端、ルートとして使えるかもしんないから世話んなっとけとか言い出すし)
もう一度、深くはぁっと息を洩らす。
(うう、いつまで貞操守れるかなぁ、僕……)
頬杖をつくように掌を耳に当てる、そこには十円玉に似せた小型の無線スピーカーを隠していた。
──会話が聞こえる。
『直接、お伝えしろとのことで、もうしわけございません』
『承知いたしました、今宵お伺いいたします』
『はっ、奥方様には、くれぐれもと』
『先日の騒動については?』
『式を破られました、かなりの手錬れでありましょう、未だ進展は見られず……』
「……」
シンジはどういうことだろうかと首を捻った。
(自衛隊の人かと思ったんだけどな)
どうも感じが違うようである、しかし神社の関係者にしては無骨過ぎる、それにどこに行こうと言うのだろうか?
(確かめた方が良いかな)
と思った瞬間、背後で襖が開いて、シンジは驚きの余りビクンと反応を示してしまった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作を元に創作したお話です。