(こんな偶然があるというのか!?)
 笠置はがくがくと足が震え出すのを止められなかった。


 ──ただそこにいる。
 座している。
 それだけであるはずなのに、少女の背後からは、形容し難い恐怖の風が冷気となって、這うようにして吹き出していた。
 足が冷える、纏わり付くような気配に怖気が走る。
 冷たい目、赤い瞳、まるで心の奥底の恐怖を見透かされているかのような錯覚を覚える。
 目の焦点が合わなくなる、真っ白な少女がぼやけて黒い影になる、黒い影は形を歪めて、より強大な恐怖へと……
「それじゃあ、話を始めさせてもらいますが」
 ふいに正常な感覚が体に戻った、加賀が緊張を崩してくれたおかげだった。
 首元にじっとりと嫌な汗をかいていた。
 不思議そうにしている加賀を無視して、顔を上げ、少女を見やる。
 もう先程のような不可思議な感覚には囚われなかった、そこにいるのはただの子供だった。
「わたしが聞かせて頂きたいのは、そこにいる男についてのことです」
 加賀は剣呑な表情を作り上げて男を睨んだ、先日のことを忘れたわけではないのだ。
「わたしの記憶が正しければ、あなたがたは俗世との繋がりを嫌われていたはず……、それが第三新東京市で何を?」
「あなたは……」
 笠置は思い切って口にした。
「あなたは国政に携わる方々に、予言のようなものを授ける方なのだとお聞きしたことがあります、第三新東京市……、ネルフをどのように見ておいでなのですか?」
 加賀は笠置の質問に、まさかといった考えを起こした。
「第三新東京市を、新たな里に?」
「どういうことだ?」
「この方が九州の地を離れ、空に上がらねばならなかった理由は、教団なんですよ」
「教団……」
「教団による思想や、信仰の汚染、それ以上に、教団そのものの『物理的脅威』を恐れて、神殿をお離れになられた」
 なるほどと納得する。
「ゴーストプレーンは、あくまで避難施設だということか」
「第三新東京市に居をおかまえになるつもりなのですか?、確かにあの地にはジオフロントがある、自給自足可能なコロニーとしても設計されているのですから、隠れ里とするにはうってつけだ」
 しかし少女は否定した。
 どのような意思疎通が合ったのか、二人の背後にまた唐突に巫女姿の女が僅かな暗がりより現れた、気配にギョッとして振り向くと、巫女は盆の上に写真を一枚置いて捧げ持っていた。
「これは……」
 恐る恐る手を伸ばし、指先でつつくようにしてから、思い切って手に取った。
 ──それは赤い髪の少女とじゃれ合っている、黒髪の少年のフォトだった。
 もちろん二人には見覚えのある顔だった、例え覚えがなくとも、隣の少女の特徴のある容姿に、すぐに連想することができただろう。
「サードチルドレン……」
 そしてセカンドチルドレン。
 二人のデートを盗撮した写真である。
 笠置は印画紙の裏がざらついている気がして裏返して見た、顔をしかめ、不思議そうにした加賀にも見せた。
『Myハニーへ加持』
 ──ふざけるな!
 加賀は写真を床に叩きつけて踏みにじりたい衝動に駆られてしまった。
 先日そこの大男が動いていたのも、加持の差し金だったのだ、今度もまた加持の差し金だなどと冗談ではない。
 加賀は背を向けた。
「失礼する」
「良いのか?」
「すみませんが、この企みは俺にとっては好ましくない計略のようだ、加持に踊らされてはろくなことにならない!、失礼させて頂きます」
 ──シャン!
 それは錫杖の音だった。
(……)
 笠置は嫌悪を顕にした。
 加賀がその場で足踏みを始めたからである。
 一瞬立ち止まり、何かを待って、今度は階段を下りる仕草をした。
(これか)
 加賀が思案顔をしているのは、なにかを考えているからだろう、ぶつぶつと呟いてもいる。
 笠置はその様子をつぶさに観察した、『錫杖』、それが術の引き金だったのだろう、自分もここにくるまでの長い距離を、こうして暗示をかけられて、足踏みしていたのだろうかと想像して、馬鹿にされた気分に陥り、錫杖を鳴らした陰陽師の格好をしている男を睨み付けた。
 烏帽子えぼしが小揺るぎもしていない、息をしているのだろうか?、生きているのかどうかも怪しくなる。
(扉も何もかもが幻かもしれんというわけか?)
 科学的な仕掛けでは防げない類のものであるらしい、となればと考えて、笠置は肝を据えることにした。




『ところで僕が今なにをしているのかって?、もちろんレイの代わりの餌係だよ』
「餌?」
『そうさ、ここには大食らいのでかぶつがたくさんいるからねぇ……、あっはっは、こらガメラ、くすぐったいじゃないか、じゃれついたってだめだよ、餌はそれだけ……、なんだい?、そんなに僕のことが好きなのかい?、だめだよ、くすぐったいじゃないか、ん?、どうしてガメラは僕を舐めるんだい?、あまつさえ咥えて持ち上げないでくれないかい?、いくら好きだからって舌で転がし、あああああ……』
 プツ、ツーツーツーツーツー……
 シンジは受話器を耳から離して、食べられちゃったかな?、と引きつった。
「レイに似てカヲル君のこと餌かおもちゃだと思ってるからなぁ」
 ……などと楽園に住まう怪獣のことを思い出しながら、携帯電話をしまい込む。
「……まったく」
 ──その楽園。
 ……の厨房には、一人の女性の姿があった。
「食べられてしまうかと思いましたよ」
「そう」
 シャワーを浴びて来たカヲルの愚痴に相槌を打ったのはナオコであった。
 エプロンを付けて、なにやら創作料理の最中である、彼女は手を休めずに、からかうような言葉を吐いた。
「嫌われているのがわかってて近づくからよ」
「わかっていないのはナオコさんですよ」
「そう?」
「あれは愛情表現の一つなんです」
 濡れた前髪を引っ張りしゃべる。
「古来より『食べちゃいたいくらい好きだ』という言葉もありますからねぇ」
 まいったなぁと身をよじるカヲルに、ナオコは憐れむような目を向けた。
 ついでに『いいねぇ、料理する女性の背中、特に出産経験のある人の落ち着いた腰の形は』などという、不埒な視線もなんとかしたい。
 ──この島の生き物で、食べられかける生物はカヲルだけである。
 そのことについては、レイから一応の説明を受けていた。
『竜に生贄を差し出す行為ってどう思う?、ナンセンスだよねぇ、あの大きさの生き物に人間一匹与えてお腹満たして貰おうなんて、でも大人しくなる、なんでかなぁ?、それはね、精神的な充足って意味合いと同じなの、人の精神ってのは巨大なエネルギーの塊でしょう?、知性の低い生物よりも、莫大な活動力を内包してる人間でお腹を満たした方が効率が好ってことになるのよね、だから処女』
 となれば、人以上に効率良くエネルギーを循環させている『彼』は、よほど美味しい餌に見えるのだろう。
 ぜひともその辺り、一度は『解剖実験』をしてでも、調べてみたいところなのだが。
「ん?、寒気がするねぇ……」
「そう?、ちゃんと髪を拭かなかったからじゃない?」
 しらばっくれて、ナオコはフライパンで踊っている、イタリアンチキンカツへと集中した。
「でも良いの?、シンジ君の傍に行きたいんでしょう?」
「それはそうですが、僕にはあなたを守るという役目もありますからねぇ」
 ナオコは訊ねた。
「この島を、ではないの?」
「ええ、この島そのものには、それほどの重要性はありませんよ」
 甘いオレンジジュースに口をつける。
「この島はシンジ君のリハビリのためだけにレイが用意したものですからね、本来はとっくに放棄していてしかるべき施設なんです」
「リハビリね……」
「ええ、僕はその時は、まだ……」
 薄い笑みに、ナオコは質問を控えた。
「……それを今は、わたしの自由にさせてくれているということね」
「そうですね」
 いつもの無意味な微笑みに戻る。
「資源は有効に、というわけでもありませんが……、現在はあなたの研究のための施設でしかないわけですから、そこに価値を抱いているのもまた、あなただけなんですよ」
 そういえばとカヲルは訊ねた。
「ノルンの様子はいかがですか?」
 ナオコはオリーブオイルからチキンカツを引き上げた。
「だめね、未だに安定しないのよ」
「生体部品から植物性への転換ですか……」
「カビの有用性については昔から研究されていたことなのよ、実用化には程遠かっただけで」
 チキンフライが落ちつくまでにと、キャベツを刻む。
「生体部品……、人間の脳は、最初から思考を行えるようになっているものだったから……、それを生体部品としてMAGIに流用したのは、単なる手抜きなのよね、はっきり言って」
「機械的なものを設計している余裕が無かったと?」
「いずれはリツコが作るでしょうけど」
 今はどうしているかしら?、と微笑を浮かべる。
「まあ、もっと言ってしまえば、なんでも良かったのよね、通電する素材でさえあれば、脳と同じ、常に電気信号を循環させる仕組みを開発できる素材であればね、ただそれを使って脳と同じ仕組みのものを作り上げている余裕が無かっただけで」
 カヲルはなるほどと納得する姿勢を見せた。
「ならその中から今回はなぜカビを?」
「際限無く成長するから」
「増殖ですか?」
「そう……、MAGIはね、『自立思考』に主眼を置いた設計をしたの、人の代わりをしてくれる機械、人が楽をするための『道具』じゃない、『パートナー』を想定して作ったの」
「ではノルンは?」
「ノルンはデータ蓄積用」
 切ったキャベツを皿に盛る。
「蓄積……」
「そうよ、MAGIが知恵を扱うことに長けた賢者なら、ノルンは知りたがりのどうして君なの、節操なく蔵書を増やそうとする活字中毒の情報マニアなのよ、構造上の欠陥から、どうしても処理能力においてはMAGIに劣ることになるけど、記録媒体としてはMAGIの比ではないわ」
「その欠陥というのは?」
「無限に増殖する広大な記憶層は、どうしたってレスポンスへの足枷になるわ、そうでしょう?」
「目的とする情報の引き出しには時間が掛かるというわけですね?」
「ええ」
「ならば量が少ない間は問題にはならない?」
「そういうことになるけど……、でも十年から十五年と言ったところで、明らかにMAGIに劣るというレベルになるはずよ」
「……微妙ですね」
「でも十年よ?、その時、まだどうにも立ち行かないようであれば……」
 さあできたわと、ナオコはカヲルの前に皿を置いた。
「鶏肉に小麦粉と卵、パン粉を付けて、それを半分浸る程度に引いたオリーブオイルの上で焼く、美味しそうですねぇ」
「本当に美味しいかどうかは、わからないんだけど、さあどうぞ」
「いただき……」
 おやっとカヲルは首を捻った。
「あなたの分は?」
 にっこりとナオコ。
「わたしはいいのよ、だって美味しいかどうか、まだわからないんですもの」
 つまり僕は実験台ですかと、カヲルはフライパンの横にある、無数のいかがわしい香辛料に脂汗を滴らせた。


 そんなわけで。
「ん〜〜〜、びみぃー!」
 とあるラーメン屋のカウンター席。
 おっちゃん替え玉!、っと丼を差し出したのはレイだった。
「やっぱ九州に来たらこれだよねぇ」
「美味しいよねぇ、ラーメン」
 おんやぁとレイ。
「シンちゃんは毎日おいしいもん食べてんじゃないのぉ?」
 うりうりとつつかれて、シンジはやめてよと訴えた。
「あの家、こんなの食べさせてくれないんだ、おかしもきっかり毎日同じ時間に賄いさんが作ってくれるんだよ?、信じられる?」
「シンちゃんジャンクフードのが好きだもんねぇ」
 それはレイだろうと思ったシンジの鼻先に、んっと手紙が突き出された。
「誰から?」
「ファウから、ラブレター」
「……」
「本物だからね、あたしが書いたんじゃないからね」
 疑わしい。
「うう……、すっかり疑い深くなっちゃって」
「誰のせいだよ」
「カヲル?」
「……」
「ナオコさん?」
 まったくと後ろポケットにしまい込む。
「毎回手の込んだ嫌がらせしてくれるくせに」
「毎回引っ掛かるシンちゃんが可愛いんだもん♪」
 ブフッと咳き込む。
「やめてよね!」
「ふふぅん☆」
「それよりっ、そっちはどうなってるんだよ!、なにかわかったの?」
 一瞬の沈黙にジト目になる。
「……遊んでたんだね」
「うっ」
「それも全力で」
「ち、違うもん!、ちゃんとファウから話し聞いて来たって!」
 今や大貫家の一員となったファウである。
 大貫家では家族イコール社員という空気があるため、彼女も半ば強制的に英才教育を受けさせられることとなってしまっていた。
「ファウの『ご学友』とやらの話だと、結構食い込んでるみたいよ?、政界に」
「又聞きなの?」
「その方が好いでしょ?」
「なんでさ?」
「信憑性よりどれだけ信じられているか、真実よりどれだけ拘束力のある慣わしなのか、でしょ?」
「そういうものか……」
「そうそう、上がそうなら下も倣わなければいけませんってね?、自衛隊もその流れってか繋がりで、『神さま』のお話を聞いてるみたいよ」
「政治色が強いってこと?」
「セカンドインパクトのごたごたで、落選するところだったのがなんとか持ち直したのは神子さまのおかげだってね?」
 レイはすこぶる不機嫌に唇を尖らせた。
「むー、こうなってくるとねぇ、初期の作戦は無理かなぁって思うわけよ、こっちに引き込めないなら、呼びかけるだけ無駄だしさ」
「あ、面倒になって来てるね?、そうなんでしょ?」
「うん」
 あっさりと認めた。
「まあ正体には興味あるけど、シンちゃんの貞操を危機に晒してまでなにするってのもあれじゃない?」
 ねぇっとお箸で指す。
 股間をだ。
「影響力があるってンなら、政界と自衛隊の連中へのゆさぶりに使えるかなぁって思ってたんだけどねぇ、『そこまで』となると、がたがたになり過ぎそうだし」
「それも困るんだよねぇ」
「そうなのよぉ……」
 ううんと二人で頭を傷めた。
『将来』自分たちが利用する予定であるネルフという組織を現在成り立たせているのは、間違いなく欲に目が眩んでいる政治家たちなのである。
 下手に干渉して骨抜きにしてしまった場合、本部にまでその問題が波及しかねないのだ、最悪地位が揺らぐこともあるかもしれない。
 ならば放置しておいても良いのではないかと考える。
 こちらが巻き込もうとしなければ、その存在は『舞台』の外のものとなるのだから。
 関っては来ない。
 歴史は『正常』に、部外者を巻き込まず、蚊帳の外において流れてくれる。
 些細な存在だとして、無視してもかまわなくなる、実はその方が計算はしやすいのだが……
「ん、まあ」
 レイは替え玉のそばをずずっとすすった。
「居なくなる前の最後っ屁ってことで、もう一回くらいちょっかいかけとくのも良いかもね」
「でも……」
「それとも暫く住み込んどく?、お坊ちゃん学校に通ってみるってのも良いかもよ?」
 シンジは冗談じゃないよと反論した、姿はどうあれ、『基準』となっている知能は、既に成人男性に近いものになっている。
「ま、そんなに急いでるわけでもないし、今日のところは大人しくしてて、あたしがやっとくから」
「いいの?」
「煮詰まってても仕方ないし、変なとこから突破口が見えることもあるしね、その時のために切り札は残しとかないと」
「僕のこと?」
 背後でからからと扉が開いた。
「おばさんの方は、あたしがやっとく」
「わかった」
「あ、居た居た」
 シンジは化けの皮を被って答えた。
「ミナホさん」
「えらいえらい、ちゃんと伝言聞いてくれたんだ?」
「そりゃ……」
 シンジがなぜこのような店に来たのかと言えば、リョウコにせがまれたミナホの呼び出しを受けたからだった。
「大丈夫大丈夫、お母さんにはあたしから言っとくから」
「はい……」
「っと、ごめんなさい」
「いえ……」
 すっと席を立って会計に向かった少女の背に首を傾げる。
「知り合いじゃないの?」
「いえ、相席になっちゃっただけです」
「ふうん?」
 しかしミナホはおかしいと感じた。
 相席にならなければならないほど、混んでいるわけではなかったからである。
「あの……」
 シンジは恐る恐る訊ねた。
「その人は?」
「あ、こっちは友達で……」
「ん〜〜〜?」
 そのリョウコはと言えば、シンジの顔をしげしげと見て首を傾げている。
「ちょっとリョウコ……」
「あ、うん……、あたし、御剣リョウコって言って……」
 リョウコは何を思い出したのか、急に目を丸くして大きな声を出した。
「あ、ああっ、あああああ!」




 細い住宅街の路を抜けると、そこには意外に広い駐車場が完備されていた。
『お山』のすそ野、本殿への入り口である、鳥居が木々よりも頭二つ分は大きく伸び出し、立っている。
 だが駐車場の広さに比べて、入り口は狭かった、そのために何台もの車が連なって、順番待ちをするはめに陥ってしまっていた。
 ほとんどが黒のリムジンであり、スモークガラスで、これが一団となっているのだから、あからさまに怪しいと、近寄り難い異様な雰囲気を作り出していた。
「セカンドインパクトさまさまだのぉ、九州環状線計画なんてものが実現されるとは、おかげで楽にここまで来れたわ」
 デブで油性あぶらしょうで、太い指にじゃらじゃらといくつもの指輪をはめている、あまりお近付きにはなりたくない類の男だった。
 下品に笑って、吹き出し続けている汗を、扇子であおいで乾かそうとしている。
 車内に充満している下品な異臭の原因は、この男が付けているコロンの匂いだった。
「もうしわけありません、今暫くはお時間が必要かと」
「かまわん、急いだところで面白くもない会合だ、それにな、後ろを見てみぃ、鳩田官房長官の車があるだろう、先にお山を登ったのでは、何か含むものがあるのかと疑われることになる」
「ですが」
「遅れた方が良いこともある、その場合は遅参したことに嫌味を言われようが、それだけで済む」
「はぁ……」
「ストレスが溜まっておるのだろうしな、はけ口としてあしらってやるわい」
 運転手の老人は、あまりに主人が殊勝なことを言うものだから、どうしたのだろうかとルームミラーを覗いたのだが、そこに映っていた表情に、なるほどと何かを納得した。
 細かいことはわからずとも、鳩田という人物の先が長くないことが、読み取れてしまったからである。
 そしてその鳩田は、同じように彼のことを蔑んでいた。
「菊田の出来損ないが、こんなところに何の用だ?」
 秘書らしき、男性物のスーツを着込んだ女性がそれに答えた。
「島原防堤の建設についての報告ではないでしょうか?、菊田さまは建設会社をお持ちのはずですから」
「防堤か……」
 来る途中に見た、この半島、あるいは島の概観を思い出す。
 九州本土から九州環状線の延長として諌早大橋がかけられているのだが、この橋を除けば島原は侵入不可能な要塞としての体裁を整えていた。
 もちろん結果的にそうなっていると言うだけの話である。
 海面上昇に伴い島原はそのほとんどの土地を失いかけた、これに焦りを感じた地元出身議員が、国ではなく知人に働きかけて築いたのが島原防堤であった。
 島をぐるりと取り囲む形で防波堤が築かれている、この囲いが水没を防いでいるのだが、同時に船による出入りまでも拒絶していた。
 現在では海抜がマイナスから始まっている島だとして、ギネスブックにも載っている。
「よくもまぁ、これだけの金を集めたものだ」
「やはりお山さまのご人徳でしょうか?」
「人徳のあるものが金を無心して持って来させるか?」
「はぁ……」
「なぁにが神子さまだ、総理も副総理もありがたがって騙されおって、先入観があるために手口が詐欺のそれだとは気付きもせん」
 秘書は困惑の表情を浮かべた。
「詐欺……、ですか?」
「所詮はつまらん手妻だよ、党の一部にも信じ込んでいる連中がおるが、わたしに言わせれば扇動されておるに過ぎん、マインドコントロールの一種だな」
「マインド……」
「そうだ」
 深く頷く。
「わたしやお前くらいであれば、それなりに親しみのある言葉だがな、あの世代の連中は、そのような胡散臭い横文字のものを信じはせんのさ」
「はぁ……」
「納得できんか?、しかし新興宗教のほとんどは、その時勢の人心の不安を煽り、先入観を持たせて、心の隙を突き、地位を確立しているものだろう?、それこそ催眠の第一歩だよ、暗示をかけて、好きなように誘導しているようだがな、わしは騙されやせんよ、だがな、その影響力には恐ろしいものがある」
 窓の外の山肌を見上げる。
「この山を守る、ただそれだけのために、島原防堤などというものを作らせたのだぞ?、国にも承認させた、これがお山さまの力だと言うのだから……」
「まだお子さまであるとお聞きしましたが」
「実際の年齢などわからんよ、なんと言ったかな?、背が伸びない病気があっただろう?、そのような者が若作りをしていればなんとでもごまかせるだろうしな」
「なるほど……」
 だがそうなってくるとわからないことが出て来ると彼女は口にした。
「でも、そのようにお考えなら、なぜご出席なされるのですか?」
「こいつを渡さねばならんからな」
 彼は傍らにあるトランクケースを軽く叩いた。
「寄進のため……、ですか?」
「パフォーマンスだよ、やっておかなければ、派閥内部での風当たりが強くなる、まったく、上手く仕掛けられたシステムだ、これでは周りが怖くて、みな参拝をやめられん」
 これもまた手妻の一つだろうと彼は言う。
「ま、真実神がおられようと、偽物であろうと、かまわんさ、『ご利益』があるのだから問題は無い」
「そのようにお考えで……」
「真実とはつまらんものさ、神社ぐるみの詐欺に過ぎないとしても、あの神社を中心とした政財界のネットワークはばかにはならん、食い込んでおいても損の無いことだろう?」
 しかしとさらに言い募ろうとする彼女に対して、鳩田は軽く腹を立てた。
「やけに食い下がるな」
「は……」
「まさか、信仰しているのか?」
「いえ……、お許し下さい、母が信心深いもので」
 そんなものかと鳩田は許した。
「注意した方が良いな、信心と盲信は別のものだ」
「はい、母にも伝えます」
「特にと言っておくようにな、見ろ、あれを」
 駐車場の奥に人影が見えた。
 参拝者が列を成して鳥居をくぐって行く、まるでそれを見張るように、修験者の恰好をした者が立っていた。
「……ここは、普通ではない、妙な連中を飼っても居る」
「はい」
「気をつけることだな」
「はい、『お父様』も」
「安心しろ」
 鳩田は相好を崩して喜んだ、そう呼ばれることが嬉しくて仕方がないらしい。
「ここではなにも起きないさ、ここは一応神社だからな、だが公安が動き出していると報告があった、お前はそちらを調べてくれ」
「わかりました」




 ──板張りの神殿、奥には簾によって、人の目より隠れられるように座が設えられている、だが、今はそこに人の姿は無い。
 男は続々と人が集まり、自分の座に着くのを尻目に、廊下で巫女服の女との会話を再開した。
「堅物であると、思って頂いても結構ですよ」
 海自の制服に身を包んでいる、顔には皺が見え始めている。
 大奈義タツミ、後にステルス強襲巡洋艦『おとぎ』の艦長となる彼が、この場に参堂していた。
 そして会話の相手は高梨夫人、シンジを囲っていたあの女である。
 巫女服を着ているのは、この場を取り仕切る役割を与えられているからであった。
「わたしは、お笑いいたしませんよ」
「恐縮です」
「はい、それに、どのようなお力を神子さまがお宿しになれているとしても、一刃の前には、多くの死が訪れましょう」
(よくもまぁ)
 タツミはわずかな関心を抱いた、普段は凡庸な女であるのが、この場に来ると、心底神子と呼ばれる少女を敬う姿勢を見せるのだ。
 かぶりを振る。
「まあ、わたしの手の者もこの周辺を固めてはおります、子供の一人くらい、見つけることは造作もありませんでしょう」
 自分は行かない、行くわけにはいかないのだと、タツミは遠回しな口調で宣言した。
 この中に入れるのは許された者のみである、それは取りも直さず、この中に離反者が居た場合、取り押さえられる者が居ないという事実に繋がりかねないのだ。
 ではと別れ、部下を呼んで指示を出す。
 この山の付近は不可思議な磁場を発生させていて、携帯電話や無線機は通じないのだ。
(娘さんか……)
 どうしても呼び出さなければならないのだと言う。
(どういう理由なんだ?)
 わけがわからずに迷ってしまう、本当に見付け出して良いのかと。
 タツミは扉越しに、内部の様子を窺った。
 どの顔を見ても、とても堅気とは言えない顔つきをした者たちばかりである。
 だらしなく太った豚が居れば、腐臭をただよわせている男も居る、政財界の大物のみならず、ヤクザが居れば、自分のような『自衛官』も居る。
 こんな場所に呼び出さねばならない用向きとは一体?
(しかし……)
 彼は自分の矜持に傷を付けた。
(もはや自衛隊と言えども、癒着を免れんとはな)
 目を閉じて、ふうっと一つ鼻息を吹く。
 瞼の裏に浮かぶのは、自衛隊駐屯基地周辺に居を構えている、住民たちの顔だった。
 この時勢である、無駄とも思える自衛隊は、騒音、公害をもたらす金食い虫だとして、害虫なみに嫌われていた。
 このような集会に顔を出し、繋がりを強め、右翼の力さえも借りなければ、地域住民の感情を押さえることさえできなくなっているのが、実情だった。
(さすがに戦自の影は見えないか)
 こんな場所を嫌うタツミが、わざわざ足を運んだのには、多分にそれを確認する意味合いもあったからである、しかし。
(俺には、毒が強過ぎるな)
 酔いそうだ、と弱音を吐いた。


 ──ブン!
 木刀の一振りが唸りを上げる。
 重く、切っ先が大気を裂く、それを成しているのは和服の上をはだけるようにして上半身を剥き出しにしている老人だった。
 白髪、白く長い顎鬚に似合わず、体はやたらと筋肉質で、首から下だけを見て老人と思う者は居ないだろうという体格をしていた。
 ──ブン!
「せんせーい、東方ひがしかたせんせーい」
 ブン!、老人は木刀を振り下ろすと、体を起こして出迎えた。
「……」
 玄関口から人が三人回り込んで来る、それはミナホ、リョウコ、シンジの三人だった。
 特にシンジは首根っこを引っ掴まれているといった感じで、おどおどとしていた。
「こんにちは、先生」
「ああ」
 非常に重く低い声。
 身長も高く、百七十はあるリョウコでも、大きく見上げなければ目を合わせられない。
 だがリョウコは物怖じしなかった。
「先生!、こいつ、やっと見付けましたよ!」
 首の後ろを掴んで猫のように持ち上げ、リョウコはシンジの顔を東方の前に突き出した。
「こいつ、あの時の子供ですよ!、上の神殿に忍び込んだって言う」
「……」
「本当ですって!、先生は子供なんかに忍び込める場所じゃないっておっしゃいましたけどね、あたし見たんですから!」
 ──上の山が騒がしくなって飛び起きる、何事かと木刀を手に飛び出した。
 常夜燈も無い場所だけに、月明かりだけでは闇にも等しい、それでも慣れた山だと林を駆ける。
 この家に泊まり込み、リョウコは東方に指南を受けていた、白の寝着は帯がほどけかけていて、合わせ目から大きな胸と白い足が覗けてしまう、それでもかまわずリョウコは雑木林に入って、焦った。
 何かが藪を抜けて来る、早い、獣のような勢いで駆け下りて来る。
 ──跳躍。
 黒い影として認識するので精一杯で、気がつけば無我夢中で木刀を振っていた、鈍い手応えに手首が痛んだ、勢いのまま転がり落ちていく様が確認できた。
 ──子供だった。
 それも木刀で叩かれたというのに、難無く立ち直って逃げ去って行った。
「きっとあれですよ!、下の小学校の馬鹿ガキの仲間ですよ!、上の奥の殿の人が女の子だって聞いて、顔見ようとして忍び込もうとしたんですよ!」
 うちの庭には忍び込んだんじゃなくて、隠れようとして潜り込んだだけだったのかと、ミナホはようやく納得していた。
 そうであれば、シンジの影に見える性格の不整合も理解できるのだ、従順さの陰に見える狡猾さの理由が。
「どうするつもりだ?」
「ちょっと道場お借りします、折檻してやるんだから!」
「ちょ、ちょっとリョウコ、それまずいって」
「どこがよ!」
「相手は子供なんだから」
「甘い!、ただの子供があたしの剣を避けられるはず無い!」
「でも……」
 やはりシンジのひ弱な容姿が引っ掛かってしまうのだ、こうなってくるとリョウコの話も疑わしくなって来る。
 頭に血を上らせている姿から、そう思い込んでしまっているだけなのではないかと言う気がして来る、シンジもそんなリョウコの剣幕に怯えてしまって、何も言い返さないだけなのではないかと不安になる。
 そんな二人の綱引きに対して、妥協案を出したのは東方だった。
「待ちなさい」
「先生!」
「……ここには竹刀が無い、木刀では大きな怪我をさせることになる」
 だからと東方は裏手に視線を向けた。
「子供相手の仕置きなら、裏のほこらで十分だろう」
「ほこらですかぁ?」
 リョウコはそれこそ不安げにした。
「そうだ」
「で、でもあれは……、あそこはきつ過ぎませんか?」
「ちょっとぉ」
 木刀を振り回すだけあって、リョウコの体格は非常に良い。
 そんな彼女さえ怯える様子にミナホは慌てた。
「そんなに危ないところなの?」
「危ないことはないんだけど……、キモチわるくて」
「?」
「とにかくあそこは」
「だからこそ仕置きにもなるだろう、行きなさい」
 鍵のある場所はわかっているなと、東方は半ば強引に仕置きの内容を決定して押し付けた。
 汗を拭いに行くのか、縁側に置いていた手拭いを持って去って行く。
「良いのかなぁ……」
 リョウコは見送って後頭部を掻こうとしたが、ポニーテールが邪魔になって、上手く掻くことはできなかった。




 山の頂には本宮があり、一般の参拝はシンジたちが居る側の宮で行われている。
 本宮に上がるためには裏側にある道を登らねばならない、普段不摂生をしている人間にとっては、実に辛い道程だった。
 ふぅふぅと汗をかいて政治家や暴力団、あるいは有力名士などの高い身分の者が登って来る、それを出迎えたのは修験者たちだった。
 無言で立っている、しかし訪れた側も心得たもので、頭を下げないことに対して、不快感を訴えたりはしなかった。
 ──その一部始終を藪の中で観察している者たちが居た。
 カメラマンだ、どこかの記者らしい、夢中でカメラを回している。
「っ!?」
 彼らは突然頭上から降って来た網に驚き、声を発する間も無く捉えられてしまった、錫杖に打たれて気を失う。
「あ〜あ」
 レイは木の枝の上に腰かけて、その様子を眺めていた。
「人権とか自由とか権利とか暴力反対とか、せめて遺言くらい残させて上げれば良いのに」
 おいおいと真下から声がした。
「彼らは無事に帰されることになる、めったなことを言わないでもらいたいなぁ」
「ん?、でも記憶を操作して人格にも手ぇ加えるんでしょ?、だったら今の自分にさようなら、明日の僕にこんにちわって」
 レイは股の下から相槌を打った修験者に言葉を返した。
「ところでこんなとこでなにやってんの?、加持のオジサン」
 いやぁと加持は、困り顔で頭を掻いた。


 ── 一方、シンジは徐々に膨らむ嫌な予感に、どうしたものかと困っていた。
「あの……、こんなところに連れて来て、一体どうするつもりなんですかぁ?」
 林の中を進んで行く、もう日暮れだ、段々と足元がおぼつかなくなって来た。
 実際、ミナホが何度も転びそうになっている。
「あ、ありがと」
「いえ……」
「リョウコぉ……、どこまで行くのぉ?」
 シンジの手助けを借りたミナホの情けない訴えに、リョウコは仕方ないなぁと教えてやった。
「あそこよ」
 指を差す。
「……穴?」
「そ」
 そこにはシンジの背丈ほどもある穴がぽっかりと開いていた、人が入れないように格子戸が張られ、しめ縄がかけられている。
「あれ、なに?」
 戸惑う二人に、リョウコは得意げに胸を張って説明した。
「あれこそが東方先生みたいな本物の『剣術家』で『法術士』でなければ、ここの神主にはなれない理由なのよね」
「剣術家ですか?」
「法術士って……」
 二人の反応はそれぞれだった。
「ん〜〜〜、元々はねぇ」
 しかし、今のリョウコには関係が無い。
「この山には、鬼が封じられていたらしいのよ」
「鬼!?」
「鬼ぃ〜〜〜?」
 リョウコはさりげなくミナホの頬をつねり上げた。
「痛い痛い痛い」
「でねぇ〜?、その鬼の眠りを守り、もし鬼が起きて来た時には退治する、東方先生はね、そんな役目を負っている裏神主さんなの」
「はぁ……」
「だから上じゃなくて下に住んでるんだけど、ま、どこまでホントでどこからウソなんだか……、だいたいねぇ、この山って、鎌倉時代に作られた砦か何かじゃないかって説もあるのよね、実際抜け穴の跡らしいのも幾つか見つかってるからね」
 この穴はその内の一つが、偶然埋まったり崩れたりせずに残ったものが、そのような鬼の伝承と結び付けられた物なのではないかと思われていると、リョウコは説明した。
「うちのお婆ちゃんから聞いた話じゃ、江戸時代には、戦に負けたお侍さんが、この穴の中で沢山死んだんだって、今でも骨が見つかってるしね」
「うう……」
 ミナホは口元を押さえた、そんな場所が近所にあったのかと知って、気分が悪くなってしまったからである。
「それが鬼ってことになっちゃったんじゃないかとかなんとか、順番が前後しちゃったりして、そんなわけでね?」
 リョウコはおどろおどろしくシンジを脅した。
「この穴の中を奥に進むと、出るのよ、お化けが」
 シンジは訊かされた話に……、というよりも、リョウコの怖さに生唾を呑み込んだ。
「まさか……、この中に行けって言うんじゃ」
 リョウコは胸を突き出して意地悪く笑った。
 下から見上げると山だった。
「良い?、このずっと奥にはね、霊を鎮めてるほこらがあるから、君はこれからそこまで行って、一人でちゃんとお参りして来るのよ」
「鬼が出たら?」
「ま、その時は諦めて」
「で、でも」
「うるさい!」
 ブンと木刀を振り回す。
「それともこれで百叩きの方が良い?」
「……行ってきます」
 ぴゅうっと逃げ出す、そんなシンジの怯え方に、ミナホはリョウコぉと引きつった。




「いやあ、レイちゃん、久しぶりだなぁ」
 加持は少々わざとらしく大袈裟に振る舞った。
「で、シンジ君はどうした?」
「今頃可愛いお姉さんたちに可愛がってもらってるんじゃない?」
 がっくりと加持。
「……なんだ、趣味変わったのか?」
「……」
「今度も紹介してもらおうと思ってたのになぁ」
 レイは呆れて、枝の上に片足を持ち上げた、膝を立てて頬杖を突く。
 ──シンジ好みの年上となると、加持にとってはちょうど手頃な『お年頃』となる。
「おしい、おしいなぁ……」
「……そんなに言うなら、頼んでみれば?」
「ん?、やっぱりいるのかい?」
「高梨の奥さん」
 加持の顔つきが微妙に変わった。
「おいおい……、『うち』の連中も当てにならないなぁ、高梨と言えば最重要の監視対象じゃないか」
「『うち』ってどのうち?」
「今は内務省だな」
「調査部?」
「ああ、戦自がまたなにかやりそうなんでね」
 戦自かぁとレイは頭を痛めた。
 ──戦略自衛隊には、印篭のような無敵の御紋が存在していた、それは有事に際しての特別法である。
 迅速な対応を行うために、『事後承諾』がある程度認められているのだ。
 見つかっても良いと考えているのか、加持は煙草をくゆらせた。
「戦自を煙たがってる奴らが、わざわざ集まってくれてるんだ、これを狙わない手はないだろ?」
「人がせっかく手を引こうかなぁって悩んでるのに」
「さすがにこの面子にちょっかいをかけるのは気が引けるかい?」
「なんで戦自が?」
「そりゃ政敵ばかりだからな」
 ふぅんと鼻白む。
「まったくもう……、最近やり過ぎなんじゃない?、センジって」
「もちろんさ、そう思ったから、内務省も動き出したんだよ」
『事後承諾』の弊害は、いくらでも辻褄を合わせた証拠を提出できるということだった。
 明らかな捏造であると判断が付いても、やはり確固たる証拠として認定されるのは、人の証言でなく、証拠品であるのだ。
 戦自はこれを上手く利用して、自らに有利になるように働いていた。
「ま、こういう『火消し』は、俺の性分じゃないんだが」
「なぁに言ってんのよぉ〜」
 呆れて下を見るレイである。
「知ってるぅ?、加持って言葉、神仏道じゃ、災いを除いて願いをかなえるために、仏の加護を祈ることを現す言葉なのよ?」
「お、ぴったりじゃないか」
「どぉこが、除くどころか、煽るくせに」
 加持はにやにやと笑って言い返した。
「言うねぇ?、でもそれは間違ってるぞ」
「どこが?」
「俺は、火付けはしない主義なんだ」
「……火種のくすぶってる匂いが好きで、見物に来てるだけだっていうわけ?」
「そういうことだな」
 それでもレイは、嘘ばっかしっと毒づいた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作を元に創作したお話です。