「だぁ────!」
 やけを起こしたミサトは、山積みになっている書類の一部を放り投げた。
「こんなのいつまでたっても終わるわけないじゃない!」
 机の上だけではなく、床の上にも積み上がっていた。投げ出された紙束が、木の葉となってひらひらと散る。
 しかし赤木女史曰く、「これでもMAGIが半分は片づけてくれたのよ?」だそうである。
 書類の落ち葉が積もる机に、ミサトはうずもれるようにして突っ伏した。
 泣き言をいう。
「……使徒でも来ないかなぁ」
 はなはだ問題のある発言であった。
 ──現在、ミサトは大量に溜まっていた書類を分別整理中であった。後回しにしていた案件が、膨大な数になってしまったからである。
 請求書や苦情の処理程度であれば、日向マコト辺りで処理できるのだが、戦術ミサイルの新型配備などになるとそうはいかない。
 ミサトが判断するまでの間、全ては棚上げとなるのである。
「とほほぉ〜〜〜」
 いかなMAGIといえども、状況と情報が入力されない限りは、なんの言葉も発しはしない。MAGIは返答はできても会話はできないのだ。想定されうる事態に対しての準備は、あくまで人間が想像力を用いて基盤を作成しなければならないのである。
 そしてその上で、武器や兵器の発注書を作成し、配備を行わなければならなかった。
「こっちが二課の注文で……なによぉ、一課の連中さぼってんじゃないのぉ? どうでもいいけどこの破壊力満点のミサイルはなによ? 点火から射出までのタイムラグが今のミサイルよりコンマ五秒も遅いじゃない。使えないったら……」
 そんな具合にぶちぶちと片づけていたミサトの元に救いの呼び出しがかかるのは、彼女が缶ビールを一本空けるくらいの時間が経った頃だった。


NeonGenesisEvangelion 『彼女の受難 転の節』


 ──青葉シゲル。
 彼は中央作戦指令室付きのオペレーターである。その本職は通信と情報分析にあるのだが、暇があれば雑事もこなすよう要請されていた。
 決して暇なわけではない。
 頭の中では様々なことが並列に処理されている。
「ふんふんふん♪」
 だが表面上では、ただ鼻歌を歌って暇を潰しているだけに見えた。
「楽しそうだな」
 そんな彼に不機嫌な調子で話しかけたのはマコトであった。
「あん?」
「楽しそうだなって言ったんだよ」
 ようやく気付くシゲルである。
「なんだよ……やたら機嫌悪いな、なにかあったのか?」
「あったじゃないよ」
 マコトははぁっと溜め息を吐いた。
「司令のとこにさぁ……チルドレンの訓練計画の改案持ってったんだよ」
「突っ返されたか?」
「もっと悪いよ……作戦部の管轄じゃないだろうって追い返された」
「ああ……」
 得心が行く。
 なにしろ『彼女』に色々と便宜を計っているのは、誰あろう自分である。
「ま、しょうがないんじゃないかぁ? このところ色々とあったしなぁ」
「…………」
「なんだよ?」
「お前は俺が何年これ練ってたか知らないからそんなことがいえるんだよ」
「ご愁傷様」
 皮肉に皮肉で返されて、マコトはあーあとうなだれた。
「まあ……来たのが予想外の子供たちばっかりだったからなぁ……。無駄といえば無駄なんだけどさ」
「だろうな」
「でも問題なのは葛城さんなんだよ」
「あ?」
「ほら……葛城さんって、このところネルフから離れてることが多かっただろう? だからなにか勘違いしてるんじゃないかって部分があってさ」
「なんだよそれ?」
「ホリィちゃんのことだよ……葛城さんってあの子をシンジ君たちとひとくくりにして見てる部分があってさ」
「ああ……あの子はそんなに特別な子じゃないからな」
「だろう? あの子ってさ、はっきり言って緩衝剤じゃないか。チルドレンと、俺たちとの」
「本人もそれは理解しているよ。わかってて楽しんでる」
「でも葛城さんがわかってない」
 顔が歪んでしまうのは、シンジたちと比べてしまっているからである。
 しっかりしているとは言え、ホリィはどこか子供なのだ。子供らしい控え目な部分が窺える……。
「『成績』はどうなんだよ?」
「悪くはないよ……でも葛城さんに比べるとなぁ」
「そりゃホリィがかわいそうだよ」
 マコトは目尻をピクつかせた。
「なんだよ? やけになれなれしいじゃないか」
「そりゃ仲も好くなるさ。相談に乗ってるからな」
「はいはい……シンジ君に睨まれないようにな。まあ俺としちゃあ戦闘が起こる前に葛城さんにそのことに気が付いてもらいたいんだよ……。どうした?」
「なんでもない」
「そうか? なにか嫌なものでも飲み込んだみたいな顔になってるぞ?」
 わかってて……とシゲルは憎んだ。
「で?」
「あ? ああ……。実際さ、まだ仕事らしい仕事ってしてもらってないだろう?」
「この間のはどうなるんだよ?」
「戦闘中の指揮権は作戦部に帰属してるじゃないか。本格的な戦闘状態じゃこっちの指揮が優先されるし、彼女に口を挟ませる余地なんてないよ」
 肩をすくめる。
「結局……平素では彼女に任せて、戦闘時には葛城さんが音頭を取るって、妙な形になっちゃってるんだよな。それならそれで戦闘中も彼女を中継して伝えればいいって葛城さんは思ってるみたいなんだけど……」
 そこで『この間』のことと、『成績』の二つが問題になってしまうのだという。
「一応戦場に出てもらったけど、彼女に働いてもらうようなところなんてなかっただろう? その上で成績が葛城さんに……いや、『セカンドチルドレン』にも追いつかないんじゃ、作戦に混乱をきたす原因になるかもしれないじゃないか」
 ああそうかと納得した。
「こちらの意図が正確に伝わらない可能性がある」
「そういうことだよ」
「そうだな……アスカちゃんなら正確に読みとって、シンジ君たちに伝えることもできるだろうけど……ホリィにそれを求めるのは無理か」
「読み違えでおかしくなっちゃな……セカンドがおかしいと気づいてくれるなら好いけど、その時にはその時で確認の手間が入るわけだろう?」
「……ホリィはいない方が好い」
「そこまでは言わないよ」
「言ってるだろう?」
「言ってない……言ったろう? 緩衝剤は必要なんだ。俺たちじゃチルドレンは御しきれない」
「ま……葛城さんを呼び出したところだし、ついでに話してみればどうだ?」
「葛城さんを?」
「ああ……こっちの問題でね」
 口にしたところで、ちょうどタイミング良くミサトが姿を現した。




「状況は!」
 ミサトは発令所に現れるなり大声で怒鳴った。
「どこで問題が発生してるの!?」
 は? 発令所に詰めていた人間は、皆そんな表情で彼女を見た。
「あの……」
「違うの?」
 ミサトはすがるような目をしてシゲルを見た。
 シゲルもまたどう言ったらいいのか迷っているような顔をしてミサトを見ていた。


「あ〜〜〜なんだぁ、珍しく青葉君からの呼び出しだから、なにか問題が起こったんだと思ったんだけど……」
 シゲルは苦笑しつつ報告した。
「問題といえば問題なんですが、まだ大きな問題には発展していません」
「どういうことなの?」
「つまりですね」
 シゲルはマヤの席に腰掛けたミサトに、軽い調子で説明した。
「保安部が総出で不穏分子を追い回してることはご存じですよね?」
「ええ……この大掃除で終わりにするんだってはりきってたけど」
「ところがその不穏分子の一部が消えたんですよ」
「消えた?」
「はい」
「どこに……」
「わかりません」
「わからないって……」
 怪訝そうに訊ね返す。
「森から本部に入り込めるハッチはチェックしたの?」
「はい」
「兵器群の関連はどうなの? エヴァのハッチとか、ミサイルビルの近くとか」
「全て確認済みです」
「それでも見つからないか……」
 ミサトは耳にしていた正体不明の獣の話を持ち出した。
「食われた……とか」
「そういうことはないはずです……少なくとも、今まではありませんでした」
「今まで?」
「はい」
 シゲルはマコトに要請した。
「おい、ファイルAの3を開いてくれ」
「A−3だな?」
 正面、巨大スクリーンに、妙なものが映写される。
『だから! 見たんだよ! 金色の化け物が!』
『ひぃっ、うわあああ! 来るな! 来るなぁあああ!』
『いてぇ! いてぇよぉ!』
 どれも取り調べ中の映像だった。特におかしいと感じたのは最後の人物の物だった。
 怪我などしていないのに、腕を押さえて、千切られたと喚いているのだ。
「なんなの? これは……」
「森林部で見つかった不審者ですよ。全員が獣に襲われたと訴えています」
「獣に?」
「はい……彼らは勝手に出て来たんスよ。森の中に潜伏用のキャンプを張ってたみたいなんですけどね。化け物に襲われたと言って、保護してくれって」
「投降してきたっての?」
「はい」
 特にと泣き喚いている男を指差す。
「彼なんて森の中から転がり出して来たらしいんですよ。何かに追われてるみたいに……。でも付いてたのは擦り傷くらいで」
「自分で付けた?」
「走り回ってる間に付いたものばかりでした。でも息切れのために呼吸困難を起こして倒れるなんて普通じゃないですよ。なにかを見間違えて、そこまで必死になるってのもどうかと……」
「でも襲われてはいない……でも妙ね? ジオフロントに餌になるようなものなんてあるの?」
「人間も含めて、獣に食い散らかされた死体っていうのは見つかっていません」
「なに食ってるんだろ?」
「ガスか何かのための幻覚……というには目撃証言が一致しすぎていますし」
 シゲルはジオフロント森林部のマップを開いた。
「とにかく広いんですよ。森は……地上の街に匹敵する面積がある上に、シェルターの出入り口も一部開きっぱなしになってましたからね」
「危ないわねぇ、警備はどうなってたの?」
「閉めても閉めても、誰かが開くわけで……」
「さっきのみたいな連中が?」
「それもあると思うんですけどね」
 次に、何かの分布状況を重ね合わせる。
「これは?」
「確認された動物の分布表です」
「こんなに居るの!?」
 とにかく、色の種類が多かった。
「シェルターに持ち込むのは良いんですけどねぇ、逃がしちゃう人が居るんですよ。それが森で繁殖してるみたいで……まだ犬とか猫なら良いんですけどね」
「他にもいるの?」
「蛇とか蜘蛛とか……日本では見つかっていない種類のものが見つかったそうです」
「酷い話ね……」
「昆虫なんかは建材やなんかにくっついてた卵が孵化したとか、資材に紛れ込んでいたとか、そんなところでしょうが」
「森の木って植林でしょう? 大丈夫なの?」
「全然大丈夫じゃないですよ、どんな生態系になってしまってるか、それも調べろって言われてて」
「そんなことまでやってたの?」
「ジオフロントは自給自足可能なシェルターとしても作られているわけですからね、放置するわけにはいかないんですよ」
「ふうん……まあそうか、で?」
「不穏分子の話に戻りますが……獣が実在しようとしなかろうと、死体が見つかっていない以上は、ただ、消えたとしか言えないわけで……」
「MAGIの判断はどうなの?」
「天井の観測装置や監視装置からは、異常を見つけられませんでした。追われていたはずの人間が一人、また一人と消えたんです」
「奇妙な話ね……」
「ええ……それで、どうしたものかと思いまして」
 ここに来てミサトはようやく自分が呼び出された理由を悟った。
 つまり期待したのはミサトという人間の知恵ではなく、責任者としての言葉というわけだ。
「一つ聞かせて……消えてる人間に、うちの職員は含まれてるの?」
「え……ああ、そういえば居ませんね」
「だとすると……人間の仕業ね」
「そうですね……そっか、区別するなんておかしいッスよね」
「ええ。リツコに頼んで、MAGIのログを確認してもらいましょう……自己診断プログラムの実施を繰り上げしてもらって、誰がなんの目的でなにを仕掛けているのか探り出す必要があるわね」
「相手はMAGIすら出し抜く敵ですからね……」
 ミサトは渋い顔をした。
「敵……ならいいんだけど」
「は?」
 ミサトはこう思っていた。
(MAGIを出し抜くことは実質上不可能だわ……でもMAGIが味方だと判断するような人間だったら? MAGIはあくまで処理を担当しているだけだから、感覚器官であるセンサーを騙されたらそれで終わりよ。不確定事項は全て保留の懸案として処理してしまう……つまり)
 表層化することなく、沈んでしまう。
(裏切りが行われているかもしれない)
 だがなぜ? ミサトはその答えを見つけることができなかった。




 第三新東京市は科学の街である。
 だがそれだけに原始的で暴力的な行いに対する防備は弱かった。
「その結果がこれか……」
 アスカは撤去されずに残されていた瓦礫の上に腰掛けていた。
 膝を合わせた上にひじを突き、あごを落とす台を両手で作っていた。
 高さは三メートルもないが、眼下では男たちがはいつくばっていた。うめき声を上げている。
 中心で一人立っているのはシンジだった。
「僕がいうのもなんだけどね」
 シンジは一人の男を選んで、足で上向きに転がした。
「街が街として成り立ってれば、監視カメラの効果もあったと思うよ? でもこう秩序が乱れてると……」
「みんな勝手をするために破壊を選ぶ……か」
「そういうことさ」
 監視カメラを壊し、盗難を行う者は多かった。そのような人間を検挙するだけの秩序は未だ取り戻されてはいないのが実情である。
「だからって、それに便乗してこういうことをしようってんだから」
 シンジの言葉にアスカはマンションを見上げた。
 今し方マユミを送り届けたばかりである。
「なに見てんのよ?」
「身分証」
 シンジはアスカに向かって放り投げた。
「なにこれ? 国家公安委員会ってなに?」
「政府の犬」
「諜報機関?」
「FBIみたいなものかな?」
 所詮シンジの知識とはその程度のものであった。
「なんでそんなのがマユミを狙うのよ?」
「回りくどい手……ってことなのかもしれないね」
「はぁ?」
「つまりさ! 友達がさらわれたら普通はどうする?」
「ああ……」
 そういうことかと理解した。
「動揺するか、言いなりになる」
「そう……。でもチルドレンとしてはネルフに関係のない人間は捨てるべきだから……って、普通そう考えるよね?」
「単に山岸さんを狙ったんじゃない? マユミを捕まえて山岸さんにスパイをやらせようとか」
「そっか……」
「全部が全部、あたしたちを狙ってくるってことはないでしょ。あたしたちだってネルフに揺さぶりをかけるための駒くらいのつもりで見られてるのかもしれないし」
「だとすると……」
 シンジはマンションを見上げた。
「山岸さんの警護もちゃんとやって欲しいんだけどなぁ……」
 アスカもならってマンションを見上げた。
「でもマユミって……ホント、良いとこ住んでんのねぇ」
 それは一種の皮肉でもあった。
 マユミはもう部屋で着替えているころだろう。マンション自体は強固な科学的結界によって覆われている。監視カメラに、警報装置に、ガードマン。
 ただの誘拐犯を相手にするだけならば、十分過ぎる警備網だが……外周はこの有様である。
「家賃高いでしょうに」
「……タダだよ」
「え!?」
「本当はタダじゃないけど。国連からの人間ってことで、ネルフが家賃を払ってるんだよ」
「日本的ねぇ……やましい側が金を出すってシステム? それで手心を加えてもらおうっての? 最低」
 シンジは笑った。
「好い見本だよね、父さんや副司令はそんなこと考えてやしないのに、その下にいる人たちは勝手にそういうことをするんだよ。それでもって責任は父さんへ、父さんは怒ってその人を首にする」
「……そうして今の体制が出来上がったってわけね?」
「あれだけ巨大な組織になると、それくらい強引でないと動かせないんじゃないの?」
 ねぇっと足をぶらぶらとさせて、アスカは訊ねた。
「あんたは……どうしてこんなにまどろっこしいことをしてるわけ?」
「え?」
「あんたなら、なんでもかんでも自分の想い通りに『設定』できるんじゃないの? 都合よく」
「まさか」
 シンジは否定した。
「そこまで都合良くはできないよ」
「そうなの?」
「そうだよ……思った通りに、願望通りに筋を作ろうとすれば、当然それ以外の部分ではつじつまあわせが発生するんだ。それを矯正して、修正して……きりがないよ」
 それもそうかとアスカは納得しておくことにした。
(その結果、どこかで破綻すれば意味がなくなる。あるていどは成り行きに任せてしまわなきゃならないってことか)
 手に届く範囲のことだけにとどめておけば、それ以外のことについては、全部が他人の責任だ。
「わがままが全部押し通る世界なんて……都合が良すぎて、生きてる甲斐がないもんね」
「そういうこと」
「だからこういうめんどくさいことも手間かけるってわけか……そいつらどうすんの?」
「後はネルフの仕事だよ」
「じゃあ保安部呼んでいいのね?」
「お願い」
 アスカはわかったと携帯電話でミサトを呼びだし、事情を告げた。
「シンジ」
「ん?」
「これからどうする?」
「これから?」
 アスカは電話をポケットにしまうと、跳ねるようにして山から飛び降り、膝を曲げた。
「今日の用事はもうないんでしょ?」
「うん」
「だったらさ」
 アスカは明るく笑って口にした。
「久しぶりに二人っきりだしねぇ……このまま帰るってのも芸がないんじゃない?」
 微笑を浮かべるシンジである。
「そういうことは……もうちょっと別の場所に行ってから口にした方が好いと思うよ?」
「馬鹿……」
 赤くなるアスカである、それはシンジの向こう側に、ホテルの看板が並んでいるのが見えてしまったからだった。




「そうか……わかった。いやいい。好きにさせておけ」
 電話を切ると、男は大きく息を吐いた。
「どうかなさいましたか?」
 豪奢な部屋である。
 スーツ姿の女性がテーブルにカップを置いた。中身はコーヒーであろう、クリープが添えられている。
 男──鳩田は長いすに腰掛けると、コーヒーを黒いまま口に含んだ。
 苦さと渋みが、彼の気持ちを落ち着ける。
「……また菊田がやったようだ」
「まぁ……」
「そろそろしっぽをつかまれる頃だな……永田町も彼を切り捨てるためのネタを小出しにし始めている。党としても意志を固めておく必要があるな」
 鳩田の相手をしているのは、彼の秘書を務めている娘の鳩子であった。
 この何年かで髪を伸ばしていた。前だけを切りそろえた、古風な髪型を作っている。
「これを見ろ」
 父の前に座らされた鳩子は、指し示された一枚の写真に目を丸くした。
「この子は……」
「お前もそう思うか?」
 はいと鳩子は頷いた。
 瞼を閉じずとも思い出せる……あれは二年ほど前のことであった。
 あの時自分は、とある山のすそ野の駐車場で待機していた。
 ──そして見たのだ。
 巨大な爆発、何事かが起こったと動揺する中、空を飛ぶ奇怪な人影を。その背中には翼があった。
 不安になり、父の無事を信じて山を登った。戦略自衛隊、自衛隊、それに山の者たち。
 そして政財界の人間と入り乱れて、混乱の中、見とがめられることはなかった。
 それでも父を見つけることはできなかった。見つけてしまったのは……。
 ──宙を跳ねる少年だった。
 あの顔は忘れようもない。
「間違いないのだな」
「わたしが見たのはこの子です」
「こちらが『お山様』の焼き付けを元にして作られたグラフィックスだが……」
 鳩田は隣にプリントアウトした同寸大のシートを並べた。
 今更驚くようなことはなにもない。鳩田はこの少年を捜索しているのだと以前にも彼女に見せていた。
 だからこそ、彼女はシンジの顔を見た時に驚いたのだし、今まで忘れずにもいられたのである。
「しかし……見つからないはずだ。お山様がお教えになられた少年の顔が、まさか二千十五年相当のものだったとはな」
「未来の像を知って求めておられたということでしょうか?」
「そのお心まではわからんよ。問題はこの少年がサードチルドレンだということだ」
「サードチルドレン?」
「ネルフのな……決戦兵器のパイロットなんだよ、この少年はな!」
「え!?」
 鳩子は驚愕に大きな声を発してしまったが、鳩田はそれをとがめるようなことはしなかった。
「驚いただろう? 俺も驚いた。この写真付きでチルドレンの報告書が届けられた時には、俺だけではなくて、絶句した人間が何人もいたくらいだからな」
 そうでしょうねと頷いた。
「みなさま……忘れてはいらっしゃらないのでしょうね」
「ああ……あの事件以来、頭の中からはこの少年のイメージは消えたらしいんだがな……」
「何年も心をむしばまれてきたわけですから」
「それだけの恩恵は得ているだろうよ……菊田の暴挙も役には立ったな」
「ではこれは菊田さまがお調べになられた?」
「そうだ。奴はチルドレンを拉致して少しでも情報を得ようとしただけのようだがな」
「しかしネルフはサードインパクトを防ぐために……」
「それだけでは組織など生まれんよ。そしてそれだけではない部分を探り出したいのさ、菊田を自由にさせてる連中はな」
「お父様も……ですか?」
「……難しいな」
 本当に難しい問題であると彼は唸った。
 あの山の頂で起こった化け物による惨事……。
 そして娘が見たという少年の異能な力。
 前者のことがあったからこそ、彼は後者のことを、錯覚でも見たのだろうと切り捨てることができないでいた。
「藪をつつくことはないのだが……傍観を決め込んでいる連中もいることだしな」
 だが面白くないのは、その連中があの山のこと以来、怯えてすくんでいるだけだということだった。
 自分までもその仲間と見られてしまうのは面白くない。
「お前はどう思う?」
 鳩子はすらすらと答えた。
「藪をつついて蛇を出すとの言葉がございますが、つついて出てくるものは蛇どころではございません。サードチルドレンであるのならば、ネルフ、ひいては国連に絡んだ動きも見られることとなりましょう……それに、この世には道理の通じぬ純粋な暴力的恫喝というものも存在します」
「分をわきまえろというのだな?」
「過ぎたる欲心(よくしん)は歯車を狂わし、歯止めを失わせます。その結果は破滅かと……」
「ふむ……」
 お許しくださいと言い過ぎたことに頭を下げる娘に対して、彼はかまわんと手を挙げた。
「そうだな……押さえてしまえばというのは希望的観測に過ぎんな。その結果なにが出てくるか、なにが起こるかは想像の域を出んわけだし、その想像もまた我々が住む世界の外のことまではわからん」
 己の権力のことばかりを考えている人間は、時としてより大きな権力者の意向が働いていることを考えぬものである。そう言っているのだ。
 そしてもしその勘気に触れてしまったのなら? 知らなかったという言い訳は許されない。
 破滅が待っているだけである。
「せめて背後関係が見えるまでは傍観を決め込むべきか」
「はい……少なくとも、菊田様が絶対の権力を得ることだけはないであろうと」
「……お前も怖いことを考えるな」
「お許しを……」
 鳩田は、愛人に産ませた子でなければ、彼女を後継者にしたものをとその才を惜しんだ。
 人を一人、囮として使い潰す非情さは、そうそう身に宿るものではない。
 そしてそれが決して自分には向けられることがないと安心できる敬愛の念。
 その両方を持ち合わせている彼女こそ、腹心としてこれ以上とない信頼を置けるパートナーであったからこそ、なぜに娘なのだろうかと考えた。
 ──妻としてもよいほどであった。


「で?」
 ジオフロントの闇の中。バギーの上に二人の男の姿があった。
 ゴドルフィンと加持である。
「どうにも不穏な動きが見られるとのことで、なにか不審な感じを受けた時には報告してくれとのことですよ」
 彼らにたいするエージェントとしても、加持リョウジは利用されていた。
「まあ、上も情報が欲しいってことでしょうね。あなたたちでなければ気づかないこともあるでしょうし」
「よくわからんな……そこまで使えん部隊ではないだろう?」
「実戦のレベルはそこそこですが……しかし彼らは迷信めいたものを信じませんからね」
「第一ここは全てが人の手によって作り出された場所だからな」
「そういうことで」
「しかし上の街を作るためにはずいぶんな無茶もしたはずだ……どれだけの自然を破壊した? それを考えれば多少の怨念といったものは蓄積しているだろう」
「動物霊……ってわけですか?」
「これは俺の持論だが……」
 ゴドルフィンはあくまで暇つぶしで聞けと煙草を勧め、自分もくわえた。
「素粒子の世界にまで分解すれば、全ての存在はプラスとマイナスで構成されていると仮定できる。ならば超常的な現象は、全て解明してしまえるのではないか?」
「……そこまで話を広げますか」
「だがお化けを見たなんてものは、その場所に電気的な残留現象が起こっているのだとすれば納得のいくものだよ。だからこそ磁場の乱れが観測される」
「写真にも写る?」
「心霊写真はオーロラのような揺れが基本だ」
 なるほどと納得させる。
「それだけじゃない……不可思議な現象が起こるのも、局所的な電磁場の乱れがあるからこそだとすれば、不思議ではない」
「……霊媒師は会話しますが、それも?」
「記憶などは電気信号そのものだろう。フェリスがそうだ。彼女の脳は限りなく信号をロスしない特殊な作りになっている」
「なるほどねぇ……なら、信号が疑似人格を形成することもありえますか」
「ああ……その存在が怨念を持っているなんて話は、ただそこから感じ取れたものを、『霊感』を持った人間が、勝手に解釈しているだけだろう。強い念を抱いて死ねば、その念の波動……信号が、念という名の磁気情報になって焼き付きを起こすとしても不思議ではない」
「霊媒師はそれを読みとるわけですか……」
「日本の小咄(こばなし)にあったはずだろう……。マリリンモンローの霊が、どうしてなまった日本語で、わたしはマリリンモンローですというのかと」
 それは小咄ではないと思ったのだが、加持は話の筋には関係ないので黙っておいた。
「それが?」
「情報が文章や言語に関係なく、抽象的なデータと観念的なアルゴリズムによって構成されているのなら、それを解析する霊媒師が、読みとる過程で『翻訳』してしまっていたとしても不自然ではないと言いたいんだよ」
 なるほどねぇ、と加持。
「しかし、人間ってのはそこまで便利なものですか?」
「だがその延長として見ていけば、透視も空中浮遊も全てが可能であるはずのものだ。磁気情報の読みとりや構築、操作によって可能になる。そういったことを超能力というのなら、人体というものは訓練によってどこまでも機能拡張が可能なんじゃないのか?」
「人間の潜在能力はそこまで凄いと?」
「俺はそう信じているが」
「してみれば使徒もそう考えられますか? 巨大な磁場情報の塊が現象として空間に焼き付いていると」
「さあな。全てが単一の理論で語れるはずもないし……第一俺は専門家ではない。俺が言いたいのはこういった考え方を持っていれば、不思議現象に対してうろたえずにいられるということだよ」
 なるほどと加持は了解した。
「自分なりに納得のできる理屈を持っていれば、迷信を世迷い言としてとらえ、自滅の道に踏み込まずにすむと……」
「恐怖にかられて馬鹿な行動に走らずにすむ」
「は?」
「……『彼』に対した時、俺は彼の姿形や、理解不能な殺傷武器……技について考えるのをやめた。本能的に『死』を代弁するものであると察して無抵抗を決め込み、生き延びた」
「ブラックなんとかの噂を信じたってわけですか」
「そうだ。噂は誇張されるものだが真実も含まれているものだ。そして真実ではないという保証もない。だから俺はそういうこともあり得るのだと思っていたし」
「そしてそれは正解だったと」
「ああ……信じていなければ俺は殺されていたな」
 あいつのようにと、犠牲になった元部下の冥福を彼は祈った。
「現在の状況で言えば……獣は幻のような存在なのではなく、もう一つ『こちら側』に存在している『現象』なのではないのかと俺は考えている」
「人に害を与えられる程度には物質的で、食料を求める必要がないほどには霊的な存在であると?」
「他に考えもつかんからな。賢い獣は肉食だ。例外なくな」
「その根拠は?」
「進化そのものだ。他の生き物の優れた部位を好んで食す動物は、その部分に変化が強く現れる」
「脳を食う生き物……」
「だが人間以上に頭が働く生き物というと、ちょっと思いつかん。狼か……烏か」
「烏?」
「烏の脳は人と同じ仕組みを持っているからな」
「しかし烏ではないでしょう……」
「なら狼のような生き物ということになるが……」
 灰色ならともかく、金色の狼など聞いたことがない。
「案外どこかに別の世界への入り口があって、そこにはまりこんで消えてしまってるのかもしれませんね」
「逃げ回っていたという連中か?」
「そういうこともありでしょう?」
 うわぁあああああ……。そんな悲鳴がどこからか聞こえた。
「……今のは保安要員のようですね」
「前言撤回だ……再訓練が必要だな」
 ゴドルフィンは呆れてタバコを吐き捨てた。
 アクセルの手前には既に山となって積もっていた。そこにこのフィルタも混ざり込んだ。
「獣用に作った罠にかからんで欲しいもんだ。せっかく作ったのに台無しだ」
「しかし獣ってのは賢いもんでしょう。獣にわからず人間にわかる罠ってのも」
「だが人間は人間にわかる罠など作らん。ここは『ゲリラ』が徘徊している森の中だぞ? 細心の注意を払って当然だろう。気が緩みすぎているんじゃないのか?」
 もっともとゴドルフィンは付け加えた。
「逃げている側もこれだけ武器になるものが転がっているというのに、反撃に出ないとはな」
「……送り込んでいる側の問題なのでは? 近代設備の整っている施設を対象とした場合、こんな場所で生きるサバイバル能力を持った人間はなかなかいるもんじゃないでしょう」
「だがなにが送り込まれてくるかはわからん。人間ではない場合もある。突拍子もない兵士である場合もある……」
「……そりゃそうですが」
「そういう連中がすでに入り込んでいる形跡は?」
 加持はすぅっと息を吸い込んでから、内緒ですよと密かに漏らした。
「あります」
「ならそういった連中がなにかしらの方法でセンサーを殺したのかもしれん」
「可能性はなきにしもあらずってところですか」
「ここの上の連中は、そういった軍隊の特殊工作兵のことは知らんだろう……サイボーグなんてものが大隊単位で準備されていることもだ」
「物騒な話ですな」
「それらがここを押さえるために用いられたのなら? どのくらい持ちこたえることができるのか……」
 ゴドルフィンはそのことを本気で心配しているようだった。
「不満……ですか?」
「ああ。軍にいた時の癖だな。得にここは退路を確保できん場所だ。殲滅戦を仕掛けられたら終わりだ。『彼』に命乞いをしてここに居るとは言っても、死ぬつもりはない」
「死にたくないから命乞いをしたわけですからね」
「皮肉か?」
「まさか! 俺も似たようなものですよ」
「そうか……」
 ゴドルフィンは無駄話を切り上げて、林の向こうの闇へと視線を投じた。
「ハロルドか」
「よお」
 ひょうひょうとした様子で歩き、やってきた。
「二人はどうした?」
「外に置いてきた。俺はともかく、二人にはきついだろ? ここのトラップは」
「そうか」
 そう言っているゴドルフィンもフェリスを外に残しているのだからお互い様だった。
「で?」
「これが地図。ここの連中調べが悪くて困ったぜ。やっぱり色々と罠が仕掛けられてたよ」
「ふん……」
 四つ折りにしていた紙を広げてチェックしていく。
「罠に規則性があるな」
「どっちに逃げてんのか迷わせるつもりなんだろ」
 罠を仕掛けながら逃げているとも、そう思わせて別の方向に逃げているとも考えられるようにしていると言っているのである。
「やはり広いな……ここは」
「そりゃそうだろ。6x6の36平方キロメートルだぜ? 森があれば丘もあるし川だってある。昔のヨーロッパじゃ立派に戦場として成り立った地形だよ」
「……藪には枝で作った罠か。不用意に突入すればそれが腹に突き刺さる」
「立派なもんさ。後は頭上注意に足元注意。細い木を横に引っ張ってあるのもあったぜ? 下手に踏み込めば薙ぎ倒されるって寸法だ」
 彼は加持へと歩み寄ると、煙草をくれと一本せがんだ。加持もとくにこだわらずに分け与えた。
「どうも」
 ついでにと火を借りてようやく人心地つく。
「ふぅ……あと、変な窪みがあちこちにあったぜ? あれは多分、木の葉でもかぶって隠れてたんだろうな」
「そうか……」
「都市戦のエキスパートを野戦に投入してもなんの役にも立たないって良い見本だな。ここの連中は退かせた方がいいんじゃないのか?」
「それでどうする?」
「もっときちんとした部隊を送り込む」
「たとえば?」
「ここは国連の下部組織なんだろう?」
「却下だな。上の連中はそれを嫌ってる」
「か────! 嫌だねぇ、世界の存続をかけて戦ってんじゃなかったのかよ?」
「で、ほんとうのところはどうしてだ?」
「……連中を刺激して罠だらけにされると面倒になるんじゃないのかってことさ。そうなると森を一度焼き払って、植林からやり直した方が早いってことになる」
「この森をか?」
「ジオフロントの開発は二十一世紀に入ってから始まったんだろう? 確か数年で今の感じを作り上げたんじゃなかったか?」
「よく調べているじゃないか」
「作ったもんを壊したくないって気持ちはわかる。けどこのままじゃどっちにしろ一度壊すしかなくなる。面倒だぜぇ? 一から探っていって、安全宣言を出すってのは。それならいっそのこと」
「それが本音か?」
「ああ。なんかうずうずしてくるぜ」
 ほれほれとハロルドは右腕を震わせ、左手で押さえて持ち上げて見せた。
「とっとと吹っ飛ばしちまおうぜってさ」
「まあ待て……やるにしても必然性は必要だ」
「けどそれはあたしも困るのよねぇ〜」
 突如頭上から聞こえたのんびりとした声に、三人は一瞬身構えた。
「おいおい……いつからそこに?」
 最初に誰なのか気が付いたのは加持だった。
「いま来たとこ」
 ザザッと木の葉を散らして降りて来た。
 降りる時には気配を立てるのに、移動してきた過程ではまったく気取らせなかった……そのことにハロルドは舌を巻く。
「神出鬼没って奴だな」
「サルなみって言ってくんない?」
「言うと怒るんだろ?」
「そりゃとうぜん」
 はいこれ差し入れっと、レイはビニール袋を差し出した。
「……滋養強壮剤ばかりじゃないか」
「徹夜でよろしく」
「…………」
 ういッスと敬礼をするレイを恨めしげに見やる。
「まったく……こんなことならリッちゃんに頼んで、自動自走兵器でも作ってもらっておくんだったな」
「自動自走兵器?」
「アメリカが研究開発してる奴だよ。二足と四足のタイプがあって、上には第三使徒みたいな上半身が乗っかってるんだ。左右の腕には対空砲としても使用できる速射型の電磁誘導銃を装備してる」
「使えるの?」
 加持は奇妙な形に口を歪めた。
「これがまた……小型の戦車並みなんだな」
「どゆこと?」
「リモートで動かす分には戦車並の攻撃力と小型なりの機動力を持ち合わせているんだが……自動の部分がどうにもな」
「わかんな〜〜〜い」
 じたばたと手足を動かす。
「あ〜つまり」
 そんなレイに落ち付けと教える。
「自動化するためには人工知能の開発が不可欠だ、これはわかるな?」
「うん」
「ところがだ。人工知能ってのはそんなにほいほいと作れるもんじゃない。バランサーに始まって二足か四足かってだけでもシステムの制御機構は大きく異なってくるもんだろう? それに上半身の兵装によっても重心や反動や荷重をどう殺すかとか、まったく違ったものになって来る」
「……開発段階では幾らでも改造をくり返すことになる」
 ゴドルフィンの指摘に、加持はまさしくその通りであると頷いた。
「本体は完成するさ……動作させることも開発段階のプログラムがあればできる。でも実戦には向かない。なぜってそのコアプログラムは次から次へと補足……補正を繰り返して肥大化させた、ジャンクプログラムの塊だからだ。とても搭載できる程度のハードウェアでは処理できない」
「コアプログラムを作り直さなくちゃならないってわけ?」
「そうだ。それをやり直すだけでも莫大な時間が必要になる……んだが、その間にも新開発ってのは出てくるわけでな」
 はぁっと嘆息。
「いたちごっこ……」
「でもMAGIがあれば話は別だ」
「……」
「後は……そうだな、パターンの問題だな」
「パターン?」
「行動パターンだよ。プログラム通りじゃすぐに攻略されてしまうだろう? となれば学習が重要ってことになってくるんだが……自己進化型AIの欠点は、融通が利かないって点なんだよな。自己進化型AIは学習事項に関しては自己チェックできないようになっている。なぜだかわかるか? 何が必要で何が無駄なのか。人間がそうだろう? 全てが判断材料で、全てが学習教材だ。良いことも悪いこともひっくるめて全てが成長のために必要な教訓として利用される。ところがこいつが大きなネックになってしまうんだな。人間ほどには融通が利かないもんだから、生真面目に一つ一つの事柄を生かそうとしてはまるのさ」
「思考ルーチンが破綻するということだな」
「最終的には……ま、そうでなくても欠点は多いんですよ。自動化された兵器はカメラとセンサーからの情報によって全てを判断し、行動する仕組みになっているでしょう? つまるところ不意打ちには弱いんです。わかるでしょう? 機械は『感知システム』を複数組み合わせて統合的な感覚器官……『第六感』を形成している人間には絶対に叶わないってことが」
 そうだろうなとゴドルフィンは頷いた。
 直列、あるいは並列に処理する機能を持たせることは可能でも、ニューロンネットワークを形成させて、複合的な分析を行わせることができないのが、現在のコンピューターの欠点である。
 それを克服しているのがMAGIなのだ。
「MAGIの手足としてなら、かなり有効なんですがね」
 ふとゴドルフィンは加持の口調が戻ってしまっていることに気がついた。
「む?」
「もう居ませんよ」
 苦笑する。
「彼を引っ張っていきました、なにをするつもりなんですかね?」
 楽しそうだな、とジト目で睨み、ゴドルフィンは差し入れの底に隠されていた、缶コーヒーを手に入れた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作を元に創作したお話です。